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Research

親子が一緒にライブでセラピー?子育ての悩みに効くと話題のPCIT(親子相互交流療法)とは

子どもがぐずって言うことを聞かない。気に入らないことがあるとかんしゃくを起こしてしまう。そんなシーンに困った経験はありませんか?

子育ての様々な困りごとを改善するPCIT(親子相互交流療法)という心理療法が、近年注目を集めています。
PCITとはどのような療法で、子どものどんな行動に効果があるのでしょうか。セラピーの内容、臨床実践や研究の現状、最新トピックまで詳しくご紹介します。

育児に限らず、家族や職場、ご近所づきあいなど、あらゆる対人関係に役立つアドバイスも。子育て中の方はもちろん、そうでない人もぜひ読んでみてください。

PROFILE

國吉 知子心理・行動科学科 教授

臨床心理士、公認心理師、PCIT International 公認WATrainer。研究のキーワードは、家族、トラウマ・ケア、親子関係の改善・修復、マインドフルネスなど、心理的援助についての研究を行っている。PCIT以外にも、イメージや身体的アプローチを用いたトラウマ・ケアや音楽療法の研究などを通して、統合的視点で心の健康、回復を考える。また、企業や様々な社会教育機関、行政などでの講演やグループ実践などにも数多く携わっている。

イヤホン越しに耳元でコーチング

今回お話を伺うのは、人間科学部心理・行動科学科教授の國吉知子先生です。

國吉先生は、神戸女学院大学大学院の附属施設である心理相談室で、2013年からPCITを実践しています。

PCITParent-Child Interaction Therapyの略。育児に悩む親と子どもが相互交流で良い関係を築く心理療法です。1970年代にアメリカのセーラ・アイバーグ教授が開発したもので、主に27歳の幼児とその親が対象。言うことを聞かない、ぐずる、嘘をつく、叩いたり蹴ったりする、かんしゃくを起こすといった子どもの問題行動を改善していきます」

こういった子どもの行動にお困りの方は多そうです。セラピーではどんなことをするのでしょうか。

「親子が一緒に遊んでいる様子を、別室のセラピストが観察します。親にはイヤホンを付けてもらい、子どもにどんなふうに関わるか、どんな言葉かけをしたら良いか、セラピストがイヤホン越しにライブコーチングします」

学内にあるモニタールームとプレイルーム。「今の声かけはとってもよかったですね」「○○してみましょう」と、セラピストがほぼ途切れることなくコーチングしてくれる(写真は大学院生によるロールプレイ)

遊んでいる最中にリアルタイムでコーチングするとは面白いですね!

「どうすれば良いかをその場でわかりやすくコーチするので、実際に体験しながらスキルをスムーズに習得できます。PCITの代表的なスキルには、PRIDEスキルや3つの避けるスキルがあります」と國吉先生が教えてくれました。

避けるスキルに命令や批判があるのはわかるのですが、質問を避けるのはどうしてでしょうか?

「質問とは、質問した側が主導権を握る行為なんです。たとえば子どもが絵を描いていると、『何を描いてるの?』と聞く。ぐちゃぐちゃの線を描いている時、子どもはその感覚をただ楽しんでいるのかもしれないですよね。ところが『何を描いてるの?』と聞かれると、何かを描かなきゃいけないって思ってしまう。つまり子どものリードを奪ってしまうんです」

國吉先生。2011年にアメリカでトラウマ・ケアのスタディツアーに参加し、PCITを学んだことが今につながっているそう

何気ない一言が子どもの自由な遊びを妨げてしまうとは!気を付けないといけないですね。でも、命令・質問・批判を避けようとするあまり、何も言えなくなってしまいそう

「一度説明されただけでは難しいですよね。だからコーチングしながら実践していくんです。セラピストは、たとえ親が間違ったスキルを使ったとしてもダメ出しはせず、うまくスキルを使えた時に褒める。セラピストが親を褒めて親に肯定的な働きかけをして、親が子どもを褒めて肯定的な働きかけをする“入れ子構造”が大きな特徴です」

なるほど、マトリョーシカのように入れ子になっているんですね。面白い構造です。

親子の良い関係を築き、しつけの段階へ

セラピーはどのように進行していくのでしょうか?

PCITは二段階構成になっています。前半は、子どものリードに従って遊び、親子の良い関係を作る『子ども指向交流(CDI)』。スキルが習得できてくると、後半の『親指向交流(PDI)』へと進みます。PDIでは効果的なしつけの仕方を学び、子どもの問題行動の減少を目指します。CDIのように親子関係を良くする心理療法は他にもありますが、PDIのように子どもが親の言うことを聞く練習をするセラピーは珍しいです」

子どもが言うことを聞かない時はどう対処するのでしょうか。

「おもちゃを乱暴に扱うといった行動をしている時は、あえて注目せずスルーする戦略を取ります。親の注意を引くための行動なので、“適度な無視”をすると一時的に注意引き行動は強まりますが、しばらくするとたいてい収まります。それでも収まらない時やエスカレートした時は、CDIでは遊びの中断、 PDIでは“タイムアウト”という方法を使います。 いったん椅子に座らせたり、安全な部屋で一人にしたりして、子どもを落ち着かせます」

“適度な無視”や“タイムアウト”は、子どもが可哀そうな気がして抵抗を感じる人もいるでしょうし、親にとっても試練の時ですね。

プレイルームにはタイムアウトの椅子も置いてあり、隣に安全な部屋も用意されている

PDIでは、親が子どもに『赤いブロックを渡してください』など簡単な指示を出すのですが、指示自体に抵抗感を持つ方もいます。命令=子どもへの抑圧のように感じてしまうんですね。でも、親がしっかりとニーズを伝えることは子どものためにも必要ですし、単に親の言うことを聞かせたいのではなくて、人の役に立つ喜びを通して、子どもの社会性を発達させるという目的がある。意図をきちんと説明すると納得してくださいます」

なるほど、親自身が納得して意識を変えていくことが大切なんですね。

『トラウマセラピー・ケースブック』はより専門的に学びたい方におすすめの一冊。國吉先生の執筆による、神戸女学院大学におけるPCITの導入のプロセスが掲載されている

目に見える効果がモチベーションを高める

これまで心理相談室でPCITを実践してきて、効果はいかがでしょうか?

「すごく手ごたえを感じますね。親がスキルを習得するにつれて、子どもの態度が変わっていくのがわかります。すると親の方でも、子どもを可愛いと思う気持ちが自然に増していく。親子の関係性が良くなる効果が目に見えて実感できます」

さらに、親自身も効果を感じやすいと國吉先生は続けます。

PCITは徹底したエビデンスベースドのセラピーで、手順と効果がすべて実証研究に裏付けられているので、手続きやスキルの根拠が明確なんです。また、毎回の行動観察(DPICS)と質問紙による問題行動チェック(ECBI)で客観的評価をきちんと行い、親にフィードバックするので、親もスキル向上やセラピーの効果を確認しながら進めていけます」

得点が高い方が子どもの問題行動とそれに対する親のストレスが強いことを示します。初回から数回で大きく問題行動が減少しています。また、PDI 2回目(9回目)で問題行動が減っていますが、これはPDI 1回目(8回目)のタイムアウトによる効果です(データはサンプル)

毎回の行動観察(DPICS)の推移。初回では具体的にほめること、行動の説明など全く出ていませんでしたが、最終回では大幅に増えています。初回で多かった質問、命令、批判など避けるスキルも大きく減少していることがわかります(データはサンプル)

効果が出ているのかわからないと、親も不安になりますよね。数値化することで効果が目に見えるのはうれしいポイントです。

PCITを始めてから現在まで、相談に来られる方の傾向や相談内容など、何か変化はあるのでしょうか?

「来られる方は、やはりお母様が多いですが、両親や祖父母、里親の方など様々です。相談内容は子どもの問題行動に困って来られる方がほとんどです。ただ、最近は発達障害に関する相談が増えている印象がありますね。発達障害そのものを治療するわけではないですが、本学でも情緒が安定し、かんしゃくを起こす頻度が減った、投薬が必要なくなったという事例があります。発達障害を持つ子どもの対応に苦慮されていたお母さんが、PCITで子どもの行動が変わっていくので、涙を流して喜んでくださったこともありました」

PCITに関する研究の動向としても「発達障害児や被虐待児など、困難事例についての研究が増えている」と國吉先生。被虐待児とその親にPCITを実施すると、実施しなかったグループに比べて再虐待率が2割にまで下がったという研究結果もあるそうです。

今後、ますますニーズが高まっていきそうなPCIT。今後の展望についても伺いました。

PCIT実践家養成ワークショップを日本で初めて大学院の授業にカリキュラム化しました。本学の院を修了すると、公認心理師や臨床心理士受験資格だけでなく、PCITの実践家としての能力も身につけることができますよ」と笑顔で語ってくれました。先生はPCIT実践家の育成にも力を入れておられるのですね。

さらに「近年、生後12ヶ月~24ヶ月の乳幼児を対象としたPCIT-Toddlersが開発されました。通常のPCITの適用年齢(27歳)よりも下の、いわば赤ちゃん版です。乳児期の愛着形成と感情コントロールにとても有効なので、本学でもさっそく実践研究を進めています」

さらに、幼稚園など教育現場向けのPCITとしてTCITTeacher-Child Interaction Training)も開発され、今後は日本でも導入を予定しているのだとか。

赤ちゃん版、幼稚園版と、さらにPCITの活用の場が広がっていきそうです。

日常生活で実践!あらゆる対人関係にも有効

最後に、PCITを日常の子育てに取り入れるためのアドバイスとして、PRIDEスキルを基にした6つのポイントを教えていただきました。

「とにかく肯定的な言葉をかけることが大切です。隙あらば褒めるくらいの感じで(笑)。特に幼稚園くらいまでの子どもは、できる限り褒めてあげたほうがいい。『上手にできたね』など成果ばかりを褒めるとプレッシャーを与えてしまう場合があるので、頑張りやプロセスもしっかり褒めるように心がけてください」

「褒めようという気持ちで相手を見ていると、褒めポイントがいっぱい見えてくるようになります」と國吉先生。子どもに限らず、どんな相手にも当てはまりそうですね。

「夫婦関係にもぜひ使ってください(笑)。どんな対人関係にも応用できます。感謝を伝えるのは褒めることに繋がるので、相手が大人の場合は『~してくれてありがとう』と感謝の形で表現してみてください」

常に意識しているうちに、自然に褒め上手、感謝上手になれそうですね!

今日からさっそく、家庭でも仕事でも褒めポイントと感謝するポイントを探して実践していきたいと思います。

なお、神戸女学院の心理相談室では、対面だけでなくオンラインでのPCITにも対応しているとのこと。子育ての悩みがあるけれど直接足を運ぶのは難しいという方も、一度相談してみてくださいね。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

1日5分で親子関係が変わる!育児が楽になる!PCITから学ぶ子育て

加茂登志子 著
小学館発行 2020

PCITを一般向けに紹介する初の書籍として、2020年5月に発売された一冊。著者はPCIT-JAPANの代表理事を務める精神科医の加茂登志子先生です。「PCITに興味のある方の入門書としておすすめです。PRIDEスキルについても非常にわかりやすく解説されているので、この一冊で概要がつかめると思います」と國吉先生。子育ての悩みを抱えている方は、手に取ってみてはいかがでしょうか。

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