多数の演奏家たちをまとめあげる!オーケストラの指揮者に学ぶチームマネジメント
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江戸時代に始まり、400年以上の歴史を持つ話芸として現代も親しまれている落語。
この日本独自の伝統芸能をアレンジし、海外の方に向けて英語で表現する「英語落語」は、テレビなどで見かけたことがあるかもしれません。
では「バイリンガル落語」はご存じでしょうか?
「英語落語」の新形態として生まれた「バイリンガル落語」、その名も「二ヶ国語多重放送方式落語」。日本語と英語の二ヶ国語を使って表現する落語とは、どんなものなのでしょうか。
今回は、「二ヶ国語多重放送方式落語」の生みの親であり、神戸女学院大学に通う現役大学生でもある落語家・ぷりん亭芽りんさんにお話を伺います。
アマチュア落語家として活動中。小学3年生の時に英語落語に出会い、英語落語の創始者である故・桂枝雀と同じグループに所属する地元の英語落語愛好家に師事。のちに英語と日本語を織り交ぜた「二ヶ国語多重放送方式」を自ら編み出す。2020年には第17回全日本学生落語選手権で最優秀賞の「策伝大賞」受賞。過去世界6都市(サンフランシスコ、ロサンゼルス、オーストラリア、ロンドン、ローマ、ベルギー)にて公演するなど海外でも活躍している。
そもそも二ヶ国語多重放送とは、どんな状態なのでしょうか…?
英語が苦手な筆者にも理解できるのか、ちょっと不安です。百聞は一見に如かず、まずは実際に見てみましょう。
英語と関西弁が矢継ぎ早に繰り出される様子は、まさに多重放送…!
英語が少ししか聞き取れなくてもスムーズに物語を理解することができて、いつの間にか落語の世界に引き込まれていました。
英語話者も日本語話者も一緒になって楽しめる、これまでにない新しいスタイルの落語は、どうやって生み出されたのでしょうか?
「私が英語落語を始めたのは小学3年生の頃。母の影響で洋楽をよく聴いていたこともあって英語が大好きで、英語で何かパフォーマンスをしてみたいと思っていたので、テレビで英語落語を観た時これだ!と確信しました。始めた頃は従来の英語落語と同じように英語のみを使っていましたが、英語のみだとどんなに頑張って表現を練習してもうまく通じないこともあって。目の前にいる人に何とかして楽しんでいただきたい、という思いで試行錯誤して生まれたのが、この二ヶ国語多重放送方式なんです」
実際に多重放送方式を見ると、ただ直接的に訳しているわけでもなさそうです。
たとえば十八番の一つである「The White Lion」では、動物園の面接を受けに来た男に「I’m happy to see you」と挨拶した園長が、すかさず後ろを振り返って「おい、アホが来たで」と関西弁で心の内を漏らします。
この英語と日本語の絶妙な配分は、どうやって考えているのでしょう。
「ただ通訳するだけではなく、両方の言語の特性を生かしてバランスや言葉選びを考えています。話す言語が変わると、性格も少しだけ変わると思うんです。たとえば英語を使う時は少しオープンになるし、日本語だと言葉の奥にある意図を表現することができる。英語が足し算、日本語が引き算のような感覚で、足し引きをうまく使うことが表現の助けになっています」
多言語で演じるからこそできる、新しい表現があるんですね。奥が深い…。
「あとはその時のお客さまにも合わせて、英語と日本語の配分を変えています。お客さまに合ったアプローチを考えて、それがうまくはまって会場が一つになれたと感じた時はすごくうれしいですね」
ベストな配分をその場で考えているとは驚きです。頭の中で英語と日本語がごっちゃになってしまわないのでしょうか…?
「大学の授業で英語を話す機会が多いので、その経験が落語をする上でも助けになっていると思います。言語を切り替えることをコードスイッチングと言うんですけど、大学ではスイッチングしながら話すことが日常的なんです」
落語をしている最中は、ものすごい勢いでスイッチングされているんですね、と改めて驚いていると「カチカチカチカチカチカチカチカチっていう感じです(笑)」とおどける芽りんさん。「頭の中でたくさんのことを考えて、とてもエネルギーを使うので、終わった後は顔が真っ赤になります」と楽しそうに笑います。
日本だけでなく海外でも活躍している芽りんさん。これまでにアメリカやヨーロッパなど世界6都市で公演を行っています。
日本公演と海外公演では、意識することも変わってくるのでしょうか?
「日本では英語に対するハードルを下げたいと意識しているんですけど、海外では落語に対するハードルを下げることを意識しています。やっぱり落語自体に馴染みのない方が圧倒的に多いので」
「ハロー」とセリフを言うと客席から「ハロー」と返ってきたり、「こっちにおいで」という英語のセリフを聞いて立ち上がって舞台に来ようとしたり。思わぬリアクションに驚くこともあるそうです。
「でもそれほど能動的に聞いてくださっているということなので、うれしかったです(笑)。落語に馴染みのない海外の方には、システムをいかに楽しくわかりやすく説明して理解していただくかを大事にしています」
2020年はコロナ禍の影響で、海外公演の機会がなかったのはもちろん、国内の公演も減ったためお客さまと直接コミュニケーションを取ることが少なかったという芽りんさん。しかし、オンラインでの落語会など新たな取り組みも生まれたそうです。
「オンラインだと場所を選ばないので、海外から観てくださる方も。今までになかった新しい試みができたのは良かったと思います」
芽りんさんは、2020年2月に行われた第17回全日本学生落語選手権で二ヶ国語多重放送方式落語を披露し、最優秀賞である「策伝大賞」を受賞。日本語以外の言語を使った落語での受賞は、大会初の快挙だったそうです。
「策伝大賞に出場することは昔からの目標でした。決勝に出られただけでもすごくうれしかったので、まさか大賞をいただけるとは、いまだに信じられない気持ちです。うれしさと同時にもっと頑張らないと、と気持ちが引き締まりました」
さらに同年11月には芽りんさんにとって初めての独演会も行いました。
「独演会も、昔からの目標の一つ。なかなかやれる自信が持てなかったんですが、コロナ禍の今だからこそ、自分が主体となって行動することで、今まで支えていただいた方々に恩返しをしたいと思いました」
まさに飛躍の年であった2020年。1年を振り返って話す芽りんさんから、これまでの努力に裏付けられた力強さを感じます。
小学生の頃から落語の道を走り続ける芽りんさんは、落語の魅力をこんなふうに語ります。
「落語って、何も考えずに見れば、ただ人があっちこっちに向きを変えてしゃべっているだけなんです。でも仕草などの表現を加えることで、見えないものが見えてくる。お客さまの想像力によって物語が作られていくんです。同じものを見て聞いて、でも一人ひとりが違うものを脳内で思い描いている。その構造がすごく面白くて、すごく不思議だなって、やればやるほど思います」
同じものを共有しながら、一人ひとりが違うものを頭の中で自由に思い描く。改めて考えてみると、不思議な気持ちになります。他のエンターテインメントにはない、落語ならではの魅力が見えてきました。
「落語を初めて観た小学生の時、扇子と手ぬぐいの2つの小道具だけで、体一つで世界観を作れるということに魅了されました」と芽りんさん。そこに見る人たちの想像力が加わることで、落語の世界は広がっていきます。
「私たち演者が全部を伝えるのではなく、お客さまの想像力に手伝っていただき、そのパワーをいただきながら表現をする。落語には身体的なコミュニケーションや表現がたくさん詰まっています。人間の力強さや未知の力が、落語には秘められていると思います」
現在、芽りんさんは大学4年生。卒業後の進路はまだ決まっていませんが、どんな形であれ英語落語は続けていきたいと語ります。
「英語落語はもちろん、違う言語での表現にもチャレンジしたいです。時代が進むにつれてどんどん価値観も変わっていくので、その時代に合った新しい表現を探索していきたいですね」
「落語の間口をもっと広げたい」と生き生きと話してくれた芽りんさん。二ヶ国語多重放送方式落語を編み出したように、新たな表現方法がひらめく日もそう遠くないかもしれません。今後の活躍がますます楽しみです。
ぷりん亭芽りんさんの公式YouTubeチャンネルには、二ヶ国語多重放送方式落語の動画がアップされています。それぞれ異なる癖を持った4人を描いた落語「四人癖」の登場人物を女子高生にした「四人癖JK版(Four Habits JK ver.)」など、現代にわかりやすく置き換えたストーリーは初心者でも楽しめるはず。「寿限無」「手水廻し」といった定番の古典落語は、様々な落語家による日本語版のYouTube動画もたくさんあるので、二ヶ国語版と見比べてみては?
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