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多数の演奏家たちをまとめあげる!オーケストラの指揮者に学ぶチームマネジメント

時には100名を超えるプロの演奏家たちを束ねるオーケストラの指揮者。彼らはどうやって組織をまとめあげ、人々に感動を与える音楽を生み出しているのでしょうか。

オーケストラをビジネスの場面に置き換えると、オーケストラは企業、楽団員は社員、指揮者はチームを率いるリーダーやマネージャーのような存在です。こうした観点から、オーケストラにおける組織マネジメントがビジネス現場でも近年注目されているのです。

今回は、指揮者として活躍する音楽学部音楽学科准教授の松浦修先生にお話を伺い、ビジネス現場でも生かせるようなチームマネジメントのヒントを探ります。

PROFILE

松浦 修音楽学科 准教授

広島大学教育学部音楽教育学専修卒業。東京藝術大学大学院、アメリカ・ボールステイト大学大学院、英国王立音楽院の指揮科を修了。2005年帰国して以降、東京ニューシティ管弦楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団など、国内の主要オーケストラへ客演。また関西二期会の公演などオペラの分野でも活躍。演奏活動に加え、国内のさまざまなジュニアオーケストラで音楽を通した子どもたちの音楽教育活動にも積極的に取り組んでいる。

パフォーマンスを引き出し、共に創り出す

これまでに国内外の楽団でタクトを振ってきた松浦先生は、オーケストラをマネジメントする上でどんなことを大切にしているのでしょうか。

「私が指揮者として大切にしているのは、楽団員のパフォーマンスを引き出すことです。優秀な演奏家が100人集まったら、自ずと最高のオーケストラになるかと言うと、けしてそうではない。演奏家たちの気持ちが一つになって、共創、つまり共に創り出していくことができた時、最高の演奏が生まれるんです。指揮者は演奏家一人ひとりのパフォーマンスを引き出し融和させて、音楽を共に創り出す空気を短期間のリハーサルの中で作っていかなければなりません」

オーケストラのリハーサル期間は3日間ほどの場合が多く、小さな演奏会なら1日しかないこともあると言います。そんな短期間のうちに、100人を超える演奏家たちを一つにまとめるのは簡単なことではありません。「言うは易く行うは難しですね」と松浦先生は笑います。

限られた時間の中で共創を生み出すためには、何が必要なのでしょうか?

「まずビジョンを明確に示すこと。この曲はこういう方向性で行きますと、指揮者がしっかりとビジョンを示す必要があります。ただし一方で、手綱を強く締めて統率しようとしてしまうと、一人ひとりの個性や自主性が制約されてしまう。楽団員はプロフェッショナルですから、この通りにしてくださいと言われればもちろん再現できますが、それってクリエイティブじゃないですよね。モチベーションも下がってしまう。だから指揮者がコントロールすべきところはコントロールしつつ、同時にコントロールせずに委ねる状況を作り出す、そのバランスが大切なんです」

チェロ奏者の経験もある松浦先生。誠実な人柄と音楽性が多数のオーケストラ、演奏家から厚い信頼をうけている

なるほど、確かにオーケストラに限らずどんなチームにおいても、リーダーがビジョンを示してくれないとどうしたら良いのかわからず困ってしまいますが、すべてを事細かに指示されてしまうと言われた通りにするしかなく、モチベーションも上がりません。

「みんなが息苦しくなってしまいますよね。どんなに優秀な人でも、ストレスを感じる状況では良いパフォーマンスは生まれません。だからすべてを決めるのではなく、楽団員が自分たちで音楽を作っていく余地を残す。あなたたちがやりたいようにやってくださいと委ねる部分を残しておくんです。ただし自由に任せすぎてしまうとバラバラになってしまうので、指揮者として大事なビジョンはビシッと言う必要がある。共創を生み出すために心がけているのは、やはりそのバランスですね」

ビジョンを明確に示して全体を統率しながらも、一人ひとりの個性が発揮できる余地を残す。その絶妙なバランスによって、オーケストラの組織マネジメントが成り立っているんですね。

音楽を魔法のように変えるコミュニケーション

オーケストラをマネジメントする指揮者としてのメンタリティは、イギリス留学時代に身に付けたと松浦先生は語ります。

「オーケストラの中心は楽団員であり、指揮者は彼らのパフォーマンスを引き出す立場だという価値観をはじめ、指揮者としてのメンタリティ、心の持ち方については、英国王立音楽院で多くを学びました。実際に楽団と一緒に練習をして、それに対するフィードバックを受けることを繰り返し、実践的にコミュニケーション方法を身に付けていきました」

松浦先生が一例として挙げてくれたのは、「I want to~」と「Shall we~」の使い分け。

「指揮者が I want to~と言うと、楽団員は『私はあなたがやりたいことのためにやっているわけではない』と思ってしまう。Shall we~、私たちはこういうふうにしませんか?という形で主語が I から we になると、相手の捉え方が全然違ってくるんです。しかし、あえて I want to~を使う場合もあります。指揮者がビジョンを示す時には、主語を一人称にしてIというアイデンティティを明確にして言わなければいけない。そういった言葉の選び方の大切さを英国王立音楽院で教わりました」

技術だけでなく、言葉とコミュニケーションがすばらしい演奏につながる

日本語でも「私はこうしたいです」と「一緒にこうしませんか?」では印象は全く違います。こうした使い分けは、オーケストラに限らずどんなチームにおけるコミュニケーションでも応用が利きそうです。

また、松浦先生は日本で多くの著名な指揮者に師事し、コミュニケーションの取り方や言葉の選び方について現場で学んだと言います。

「たとえばマーラーの交響曲第5番は、パパパパーン、パパパパーン、というトランペットの独奏から始まります。90分ほどに及ぶシンフォニーの幕開けであり、とても緊張感がある部分です。このトランペット独奏を、私が師事した小林研一郎先生は『雪原の中に足を一歩ざくっと踏み出すような雰囲気でいきましょうか』と表現されるんです」

誰もいない真っ白な雪原に踏み出す。そんな映像が頭に浮かんで、実際の演奏を聞いていない筆者でも曲のイメージが膨らんでいくような気がします。

「すばらしい指揮者はそうした一言で演奏をがらっと変えることができるんです。演奏方法を具体的に指示するのではなく、あえて曖昧な表現を使ってパフォーマンスを引き出す。でもすべてを曖昧にするのではなく、ビジョンを明確に示すべき時にはビシッと言う。そういった駆け引きが、偉大な指揮者の方々はやはり長けていますね」

楽譜は同じなのに指揮者が変われば違う演奏になるのはなぜだろう、と不思議に思っていましたが、そういった一言の積み重ねが音楽を変えていくんですね。

「同じ楽譜、同じ楽団でも、指揮者が変われば全く違った音楽が生まれる。まるで魔法のようです。私も指揮者として、楽譜をただ正確に再現するのではなく、独創性や付加価値を作り出していくことを大切にしています」

孤独を乗り越えるしなやかな強さ

オーケストラを一つにまとめ、自分ならではの付加価値を生み出す。そんな指揮者の姿に思わず憧れてしまいますが、「自分のやりたい音楽ができて良いですね、カッコいいですね、なんて思われることがありますが、全然そうじゃない。指揮者はものすごく孤独なんです」と松浦先生。

「演奏会に臨む時には、お客さまからつまらない演奏だったと言われたらどうしようと考えてしまいますし、やっぱり怖くなりますよ。でも、マイナスの感情に支配されないように自分をコントロールして、自分のビジョンを保たなければいけない。そういう孤独がありますね。でも指揮者だけでなく、企業の経営者やチームのリーダーを務めている人なら、同じような孤独をお持ちだと思います。自分が示した方向性が果たして本当に正しいのか、良い結果をもたらしてくれるのか、自分自身にもわからない中で、それでも組織的な責任を負う立場としてビジョンを示さなければならないわけですから」

研究室でオーケストラの楽譜と向き合い方向性を練る

リーダーの孤独や不安を感じながらも、松浦先生はどのように楽団員たちと向き合っていくのでしょうか。

「マイナスの感情に支配されて自分の方向性がぶれてしまうと、説得力を失ってしまいます。自分が本当に信じること、芯となる部分をちゃんと守ることで、最終的に人は付いてきてくれると思うんです。だから、自分がこうしたいんだという芯の部分は絶対にぶれずに示し続ける。そうすれば、初めは抵抗感があったとしても、最終的には付いてきてくれると思います」

ビジネスの現場においても同じことが言えるのではないかと松浦先生は語ります。

「リーダーが自分の意志をしっかりと示し、ぶれずに方向性を伝え続ける。同時に、メンバーの自律性を促し、共に創り出していくというスタンスで新たな価値を生み出していく。オーケストラでもビジネスの現場でも、大切なことは共通しているのではないでしょうか」

強さとしなやかさを併せ持つリーダー。共創を生み出すマネジメント。松浦先生が指揮者として目指してきたリーダー像やマネジメント手法は、まさにこれからの時代にビジネス現場で求められているものだと感じました。


(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

オーケストラの経営学

大木裕子 著
東洋経済新報社発行 2008

ヴィオラ奏者として楽団に所属していたという異色の経歴を持つ経営学者が、オーケストラを経営学的に分析した一冊。「オーケストラのマネジメントについて深く述べられているので、読めばさらに視野が広がると思います。今回お話したような指揮者の駆け引きなど、楽団員としてのご自身の経験をもとに詳しく書かれています」と松浦先生。ビジネスパーソンにとって有益なヒントが得られるだけではなく、音楽的な面からも楽しめそうです。

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