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翻訳文化が発達しているといわれる日本。そのおかげで私たちは、海外のさまざまな文学や文化に母国語でふれることができます。
また、エンターテインメントだけでなくビジネスの世界においても、通訳者や翻訳者は欠かせない存在です。
とはいえ普段の生活の中では、通訳者・翻訳者と対面する機会はなかなかありません。
通訳・翻訳の世界で活躍するプロフェッショナルは、日々どんなことを考え、どのように仕事に向き合っているのでしょうか。
今回お話を伺うのは、通訳・翻訳の分野で長年キャリアを積んできた文学部英文学科の中村昌弘先生、奥村キャサリン先生、スーザン・ジョーンズ先生の3人。
先生方のお話から、通訳・翻訳に限らず日本語でのコミュニケーションにおいても大切なスキルやマインドが見えてきました。
会議通訳者。早稲田大学大学院法学研究科博士前期課程を修了。訳書に、ダニエル・ジル『通訳翻訳訓練』(みすず書房、共訳)、著書に『ESP的バイリンガルを目指して——大学英語教育の再定義』(大阪大学出版会、共著)などがある。
会議通訳者。シドニー大学外国語学部を卒業し、クイーンズランド大学日本語通訳翻訳修士課程を修了したのち、企業での通訳者としてのキャリアを経て現職。専門分野は異文化間コミュニケーション能力、教育の国際化など。
ワシントン大学セントルイス東アジア学部修士課程修了。国内のテレビ局での契約書や字幕制作、英語ナレーターなどやフリーランスとして企業間の契約書や字幕の翻訳業務を経て、現職。専門分野は絵本翻訳、メディアにおける翻訳、字幕翻訳など。著書に『ミステリーを読んで英語のスキルアップ』(英宝社、共著)がある。
通訳と翻訳。ジャンルとしては近いように思えますが、2つの間にはどんな共通点や違いがあるのでしょうか。
通訳をメインとしながら、時には翻訳も手掛けてきた中村先生と奥村先生、主に商業翻訳に携わってきたジョーンズ先生に、それぞれの立場からお話を伺います。
まず共通点については、「文化背景の異なる人たちの間に入ってコミュニケーションのお手伝いをする面白さや、ぴったりとくる表現を見つけた時の喜びは、通訳でも翻訳でも同じですね」と奥村先生。
ただし、通訳は話し言葉、翻訳は文章として残るという大きな違いがあると続けます。
「翻訳は残るからこそ、より高い完成度が求められますし、細部まで気を配らなくてはいけません」(奥村)
「たしかに翻訳では、句読点の位置や文末表現一つまで気が抜けないですね」と中村先生も言葉を継ぎます。
「どんな言葉をどんな順番で紡いで、漢字の割合はどれくらいにするかなど、細かい決断を積み重ねていく。まるでパズルの膨大なピースを一つずつ埋めていくような仕事です」(中村)
翻訳ならではの細かい作業の大変さを語る奥村先生と中村先生。一方、翻訳をメインとするジョーンズ先生は、自分にとっては苦にならないと笑顔で話します。
「私はパズルやゲームが大好きなんです。翻訳者は細かい作業にじっくり取り組むのが好き。性格の違いですね」(ジョーンズ)
「翻訳者は緻密ですよね。通訳者は勢い(笑)。もし同じ居酒屋で、通訳者の団体と翻訳者の団体が飲み会をしていたら、どっちがどっちかすぐにわかると思いますよ」(中村)
通訳者の集まりでは勢いよく言葉が飛び交い、翻訳者はしっとりと飲んでいそう…。二つの飲み会を想像して思わず笑ってしまいます。通訳と翻訳、なんとなく同じカテゴリで捉えていましたが、お話を聞いてみると全く別物のようです。
では、通訳ならではの面白さはどんなところにあるのでしょうか?
「通訳には話し方や声で演じる楽しさ、自分のパフォーマンスで聴衆に伝える面白さがありますね」(中村)
「話し手が怒っていれば私も怒らないといけない。話し手が皮肉を使っているなら私も皮肉っぽく。役者になったつもりで、話し手を真似しています」(奥村)
「通訳の“訳”は役者の“役”だと、私の師匠も常々おっしゃっていました。あとは、聞き手の反応を見ながら話すので、例えるなら通訳は舞台、翻訳は映画。じっくり編集して作り込むのが翻訳で、編集できないライブ感やレスポンスを楽しむのが通訳ですね」(中村)
大きな身振りを交えて話す中村先生の姿は、たしかに舞台役者のよう!
話を聞いていたジョーンズ先生は、「その場で決めないといけないなんて私は無理」と笑います。
「私だったらたぶんフリーズしてしまいますね。今すぐ訳さないといけないんですか?ちょっと考えたいですって言いたくなる。通訳には専門的なスキルや訓練が必要なんです」(ジョーンズ)
通訳と翻訳は、語学を使う点では共通していますが、必要なスキルは随分違うようです。3人のお話を伺っていると、そもそも使う筋肉が違う、という印象を受けました。
通訳・翻訳をする上で、先生方はどんなことを大切にしているのでしょうか。
「大切なのは、オーディエンスは誰なのか。誰に伝えるのかを意識して言葉を選ぶように心がけています。たとえば高齢の方が多ければカタカナ語はなるべく避けますし、専門家が一般向けに話すのであれば専門用語に説明を加えます」(奥村)
「私も全く同じです。翻訳は読者を第一に考えなければいけない。翻訳文がどんな場所でどんな用途で使われるのか、そこまで読者のことを考えて訳してほしいと学生たちにも伝えています」(ジョーンズ)
通訳ではオーディエンス、翻訳では読者。受け手を一番に考えるという点は共通しています。中村先生は役割というキーワードで思いを語ってくれました。
「通訳でも翻訳でも、役割を果たすものを作り上げることを大切にしています。クライアントが聴衆の前で話す場合でも、誰かと交渉する場合でも、そのクライアントが期待する役割を果たさないといけない。役割を果たせる訳、つまりオーディエンスに合った言葉を選ぶ必要があります」(中村)
たとえば交渉の場なら、交渉を成功させる役割を通訳者も共に担うということ。奥村先生も「クライアントと一緒に交渉する、チームの一員という気持ちで臨みます」と語ります。
「通訳の言葉一つで、交渉を有利にも不利にもできてしまう。自分がどういう役割を担っているかを意識することがとても大切なんです」(中村)
通訳者はすごく重要なポジションを担っているんですね…と驚いていると、「だから秘書と通訳者は怒らせてはいけないって言われているんですよ」と不敵な笑みを浮かべる中村先生。皆さん、肝に銘じておきましょう…!
神戸女学院大学で毎年開催される絵本翻訳コンクールの審査員も務める先生方。絵本翻訳において大切なポイントについても伺いました。
「絵本は子どもだけでなく大人も読みますから、両方のオーディエンスを意識しなければいけません。そこが翻訳の中でも独特ですね。さらに、かけことばや韻、リズムなどの要素もあります。まず原文をしっかりと理解した上で、文章のクリエイティビティも必要です」(ジョーンズ)
「ビジネス翻訳のようにただ意味を伝えるだけではなく、表現力が問われます。擬音語や擬態語は、母語でないとなかなか使いこなせない難しさがありますね」(奥村)
「絵本は短くて豊かでなくてはいけない。短いフレーズの中に音の美しさや言葉の楽しさを盛り込む、俳句のような世界ですね。言葉をそぎ落としていく難しさや面白さがあります」(中村)
絵本翻訳コンクールでは、多い年には1500作品以上の応募があるのだとか。同じフレーズでも、翻訳者によって表現はさまざま。今年はどんな作品が集まるのか楽しみです。
通訳や翻訳についてお話を伺ってきましたが、そもそも訳すとはどういう行為なのでしょうか。私たちが英語の授業で取り組んできた和訳や英訳とは何が違うのでしょうか?
「訳という言葉から、学校で勉強した英文和訳や和文英訳を想像するかもしれませんが、そのイメージは捨て去った方が良いです。訳すとはその人が伝えたいことを伝える仕事ですから、まず何を伝えたいのかを理解することが必要です。理解せずに単語から単語に置き換えても何の役にも立たない。伝えたいことは単語の中にあるのではなく、話し方や表情、姿勢にも表れているんです」(中村)
「その人が何を伝えたいのか、行間を読んで意図をつかむことが大切です。話を聞いて分析する力が必要。単語を直訳するだけなら、機械でもできるわけですから」(奥村)
最近は機械翻訳も急速に発展しています。いずれ人間による通訳や翻訳が必要なくなるという意見もありますが…。
「そう思っている人は多いですが、機械があるから通訳者や翻訳者が要らないということはありません。なぜなら機械は読者やオーディエンスを想像できないからです」(ジョーンズ)
「機械翻訳の精度はここ数年で格段に良くなっていますが、機械は意味を理解しているわけではない。統計的な処理をしているだけなんです。だから同じ言葉を繰り返したり、大事な内容が抜けてしまったりすることもよくあります」(中村)
機械翻訳はあくまでもツールの一つだと先生方は語ります。
「機械の精度が上がり、学生たちにも使わないでとは言えない時代になりました。今は3年次から授業で機械翻訳を取り入れています。まず機械が翻訳しやすいように原文を事前編集し、機械翻訳にかけて、上がったものを人の手で修正していきます」(ジョーンズ)
「私たちがゼロからやるより、機械にやらせて人が直すほうが早くできる。スピード重視の世の中ですから、便利なものはうまく使おうというやり方ですね」(中村)
機械翻訳と通訳者・翻訳者は相反するものではなく、あくまでも機械は効率を上げるためのツールということですね。
伝え手の思いを理解し、受け手のことを考えて表現する。そんなプロセスは、まだまだ機械では補えない人間ならではの仕事なのでしょう。
相手を理解する力や伝える力は、よく考えてみると通訳・翻訳だけに必要なスキルではありません。先生方のお話から、日本語のコミュニケーションにおいても大切なことに改めて気付かされました。
(ライター:藤原 朋)
駒宮俊友著
アルク発行 2017
翻訳者がどのようにして翻訳を行っているのか、もっと詳しく知りたくなったらこの一冊を。英日翻訳のプロセスに沿って、翻訳者に必要なスキルを詳しく紹介しています。「中学生から大人まで、翻訳に興味のある人にぜひ読んでほしい」と中村先生も太鼓判。さらに英日翻訳のスキルの中には、日本語のビジネス・ライティングにも応用できるヒントがたくさん。日々の仕事にも生かせそうです。
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