アフリカと日本のソーシャルワークから、いま私たちが知るべきこと、学ぶべきこととは?
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長く続くコロナ禍は、私たちの生活にさまざまな変化をもたらしました。
通勤やおでかけの機会が減ったことによる運動不足を解消するべく、自宅でできるエクササイズや、ランニング、ウォーキングを始めた人も多いのではないでしょうか。
コロナ禍に運動習慣が見直されたように、スポーツと人々との関わり方は、社会の影響を受けて時代と共に変化しています。今回は、そんなスポーツと社会の関係について考えるスポーツ社会学を専門とする小坂美保准教授にお話を伺います。
岡山大学大学院教育学研究科修士課程を修了。山口福祉文化大学ライフデザイン学部講師、兵庫教育大学大学院学校教育研究科助教を経て、2016年から神戸女学院大学に着任。主な研究論文に「市民からみた新しい都市空間としての公園への期待と利用」、「近代都市公園と女性」などがある。
小坂先生は体育の実技科目やスポーツに関する講義科目の授業を担当するかたわら、自身の専門であるスポーツ社会学の分野で研究活動に取り組んでいます。
スポーツ社会学とは、どのような学問なのでしょうか。
「スポーツ社会学では、社会で起きているできごとの一つとしてスポーツを捉えます。社会構造がどのようにスポーツに影響を与えているのか。あるいは、スポーツが社会にどんな影響を与えているのか。常に社会との関係の中でスポーツを社会現象や文化として理解し、何が問題なのか、何が起きているのか、何ができるのかを考えていく学問です」
現在は、都市におけるスポーツ空間の形成過程について研究を進めていると言います。
「もともと学校の運動場や体育館といった空間に興味がありました。こういう空間に来ると、私たちはなんとなく運動しなきゃと思ったり、体を動かしたくなったりしますよね。たとえば運動場だと、中央に広いスペースがあって、周りに運動器具が置かれていて、運動しやすい空間が作られている。似たような空間として公園があります。公園も広場があって、周りに遊具や運動器具が置かれています。なぜ似ているんだろうと疑問に感じて、公園に注目するようになりました。今は東京の日比谷公園を主な研究対象としています」
なぜ日比谷公園に注目したのでしょうか?
「日本で初めて運動空間を持った公園として作られたのが日比谷公園なんです。今は公園で運動することが当たり前のようになっていますが、それがいつからできるようになったのか。学校以外の場所でスポーツをすることを人々がどのように受け入れ、現在まで続いてきたのか。当時の社会的なできごとや教育・文化、社会制度、日常生活なども照らし合わせながら、都市における運動空間の意味を考えています」
公園そのものも時代と共にかなり変わっていそうですね。最近は「ボール遊び禁止」など、都会の公園では禁止事項が多いイメージです。
「明治時代に作られた日比谷公園、大正時代に整備されていった他の運動公園、と時代に沿って現代までの流れを紐解いていくと、最近の公園の使われ方についても何か見えてくるんじゃないかと思っています。どういう仕組みや流れがあって、現代のような禁止事項ばかりの公園になっているのか。自分なりの見方を見つけたいですね」
研究を進めるにつれて興味の範囲は広がっているものの、一貫しているのは空間に関心を持っていることだと話す小坂先生。
「空間によって、私たちの体の動かし方が変わる。強制はされていないけれども、その空間にふさわしい振る舞いをしてしまう。空間にいざなわれる。体育館に来ると運動したくなるのは、私たちの記憶の中に体育があるからかもしれません」
たしかに、体育の授業が苦手だった筆者でも、久しぶりに体育館という空間に身を置くと、ボールを触りたい、何かやってみたいという気持ちになるから不思議です。たとえ苦手だったとしても、体の中には体育の記憶が眠っているのかもしれないですね。
スポーツ全般が苦手で、体育の授業はあまり好きではなかったと筆者が話すと、小坂先生はこんなエピソードを教えてくれました。
「神戸女学院で勤務するようになったばかりの頃、授業でバレーボールをしたことがありました。私はスポーツが好きなので、競争やゲームって楽しいよねっていう感覚だったんですけど、授業でやってみるとなかなかラリーが続かなくて。授業の後、ある学生さんに『もう絶対にバレーは嫌です。競争は嫌いです』と涙ながらに言われてしまいました。あぁそうか、みんなが競争を楽しんでいるわけじゃないんだと。競争はスポーツの一つの面白さだけど、競争や勝ち負け以外の面白さももっとあるなって気付かされたんです」
それまではスポーツ系の学部で授業を担当してきたため、スポーツがあまり好きではない学生の気持ちがわかっていなかったと振り返る小坂先生。以降は授業のやり方を変えていったと語ります。
「ラリーが続く楽しさ、ボールをうまく返せたうれしさなど、競争や勝ち負けではないスポーツの本当の面白さを味わってもらいたいと考えるようになりました。スポーツが好きな学生とばかり接していたら見えなかったことが見えるようになり、考え方が広がって良かったと思っています」
もし小坂先生のような先生に体育を教わっていたら、私も体育嫌いにならなかったかもしれない……と羨ましくなってしまいました。
「初めに学生さんが嫌だと伝えてくれて良かったです。最後まで嫌な体育で終わってしまったら、彼女はたぶん卒業後にスポーツをしようとは思わないでしょう。将来子どもを持ったとしても、子どもをスポーツの場に連れて行こうとは考えないかもしれない。やっぱりスポーツの世界に身を置く者としては、どんな形でもいいのでスポーツと関係性を持ってもらえたらうれしいなと思います」
「スポーツは『する』だけでなく、他にも『みる・支える・知る』といったさまざまな関わり方があります」と話す小坂先生。
「する」「みる」はイメージしやすいですが、「支える」「知る」とはたとえばどんなことでしょうか?
「『支える』は、たとえばボランティア活動。選手をサポートする栄養士さんなどもそうですね。『知る』は、ルールを知ることや理論的な知識を身に付けること、スポーツの歴史を学ぶことなど。他にも、最近は『つくる』という関わり方があります」
スポーツを「つくる」とは?新しい競技を作り出すということでしょうか。
「たとえば障害のある方や高齢者の方が参加できるように、既存のルールを変えたり新しく作ったりするアダプテッド・スポーツという分野があります。既存のルールに合わせてプレイするのではなく、逆にスポーツのほうを今いるメンバーの状況に合わせる。その場にいるみんなが楽しめる形を作っていくという考え方です」
アダプテッド・スポーツという言葉は初めて知りましたが、実は子どもの頃に自然にやっていたことかもしれません。人数が足りない時にゲームの仕組みを変えたり、年下の子が混ざっていたら特別なルールを作ったりしていたことを思い出しました。
「『する・みる・支える・知る』、そして『つくる』。スポーツとの関わり方は多様化しています。楽しみ方はいろいろあるよ、一つじゃないよっていうことを伝えていきたいですね」
スポーツをなんとなく敬遠してきた筆者でしたが、自分なりの関わり方や楽しみ方を見つけられたらいいなと、少し距離が縮まったような気がしました。
最後に「ちょっと体を動かしてみたくなりました」と小坂先生に伝えると、「そう思ってもらえたらうれしいです」とにっこり笑って見送ってくれました。
(ライター:藤原 朋)
森川貞夫 佐伯聰夫 編著
大修館書店発行 1988
スポーツと社会の関係についてもっと知りたくなった人に向けて、小坂先生が紹介してくれた本。「ジェンダーや商業主義、オリンピックなど、スポーツ社会学が扱うさまざまなトピックにふれているので、入門書としておすすめします」と小坂先生。「なぜスポーツ社会学を学ぶのか」「スポーツを社会学的にどのように捉え、考えるか」という概論から始まり、後半ではスポーツ社会学の課題がトピックごとに解説されているため、初心者でも読み進めやすい一冊です。
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