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Culture

アフリカと日本のソーシャルワークから、いま私たちが知るべきこと、学ぶべきこととは?

生活において課題を抱える人をサポートする「ソーシャルワーク」。
では、ソーシャルワーク発祥の地は、どこの国かご存じでしょうか?
答えはイギリス。1869年にロンドンで設立された慈善組織協会による救済活動が、ソーシャルワークの起源だと言われています。

今回お話を伺う文学部総合文化学科教授の金田知子先生は、ソーシャルワークが生まれたイギリスで社会福祉学の修士号を取得し、当初は欧米の福祉に関心を寄せていました。しかし現在は途上国、特にアフリカに目を向け、そこで暮らす精神障がい者について研究していると言います。

なぜ、社会福祉制度そのものがほとんど存在しないか、あるいは機能していないような途上国に注目するようになったのでしょうか。
そして、アフリカと日本のソーシャルワークを取り巻く環境には、どのような共通点や違いがあるのでしょうか。
金田先生のお話から、日本に暮らす私たちも大切にしたい考え方が見えてきました。

PROFILE

金田 知子総合文化学科 教授

神戸女学院大学文学部総合文化学科卒業。英国バーミンガム大学大学院 修士課程、神戸大学大学院 国際協力研究科博士後期課程を修了。関西福祉大学社会福祉学部助教授を経て、2006年から神戸女学院大学に着任。2015年から1年間、南アフリカにあるステレンボッシュ大学ソーシャルワーク学部に客員研究員として留学。主な研究論文に「リベリア都市部におけるドラッグ使用の素描」「シエラレオネにおける精神障害者施設の利用者の特性インタビュー調査からの分析」などがある。

衝撃的な体験が、途上国に目を向けるきっかけに

金田先生がアフリカのソーシャルワークに関心を持つようになったのは、今から20年近く前。アフリカの政治を研究するパートナーと共に、ナイジェリアを訪れたことがきっかけだったと語ります。

「ある日の昼、ナイジェリア最大の都市ラゴスでタクシーに乗っていると、目の前に真っ黒な何かが飛び込んできたんです。びっくりして、運転手に何があったのか尋ねると『気が狂ったやつだ』と言われました。精神障がいを持っている方が、真っ裸で車の前に飛び出してきたと察しました」

ナイジェリアの街中で目にした光景に驚いた金田先生は、現地に住むナイジェリア人の友人にこのできごとを話したと言います。

「ナイジェリアでは、精神障がい者に対して『裸で街をうろうろしている人』というステレオタイプのイメージがあるとその友人が教えてくれました。『ナイジェリアでは普通なんだよ』と何気なく言われて、戸惑いましたね」

一体、彼らはどういう生活をしているんだろう、どんな治療を受けているんだろう。

気になった金田先生は帰国後に文献を探しましたが、見つかりませんでした。

「アフリカの精神保健福祉やソーシャルワークについての文献は、当時、少なくとも日本語ではほとんど見つかりませんでした。ならば自分で調べてみようと思ったのが、研究の始まりでした」

金田先生はナイジェリアに暮らす精神障がい者の研究を始め、その後は同じ西アフリカの英語圏の国で、ナイジェリアより小国のシエラレオネやリベリアも対象として研究を進めていきます。2015年から2016年には、南アフリカ共和国にあるステレンボッシュ大学に客員研究員として留学し、1年間現地で研究活動を行いました。

留学先のステレンボッシュ大学で、同僚とのひとこま

途上国で求められる“開発的ソーシャルワーク”

「私が関心をもっている研究テーマは、『社会開発とソーシャルワーク』。途上国の精神障がい者が直面する問題を解決するためには、治療的支援だけでなく社会開発的なアプローチ、つまり“開発的ソーシャルワーク”が必要なんです」

開発的ソーシャルワークという言葉は初めて聞いたのですが、どのようなものなのでしょうか?

「日本では、金銭的に困ったら生活保護を受ける、介護が必要になったら介護保険が利用できるなど、さまざまなサービス(社会資源)があります。ソーシャルワーカーはこうした社会資源を必要な人々に適切に提供していく役割を担っています。でも、そういう社会資源が少ない途上国では、地域社会におけるさまざまな資源をあらたに作りだしていく開発的ソーシャルワークが、ソーシャルワーカーの重要な役割になります」

途上国の現状と同様に、かつては日本でも社会資源が少ない時代があったと金田先生は続けます。

「たとえば私が専門としている精神保健福祉領域で言うと、精神障がい者の方が地域で利用できる社会資源ができ始めたのは1990年代。それ以前は、彼らが働きたくても働く場所がほとんどなかったし、相談に行ける場所もごくわずかしかありませんでした。ソーシャルワーカーが当事者や家族の方々と一緒に作業所を立ち上げたり、住む場所が見つからない方たちのために一緒に住める場所を作ったり、そういったことが1970年代~80年代の日本では実際に行われていました」

50年ほど前の日本でも、資源を作り出すという開発的ソーシャルワークが行われていたんですね。

現在も社会資源が少ないアフリカの国々では、どのような状況なのでしょうか。

2007年に初めてシエラレオネに行った時に驚いたのは、当時400万~500万人の人口に対して、精神科医が1人しかいなかったこと。精神科病院も1ヶ所だけでした。現在では精神科医が2人に増えたという話を聞きますが、まだまだそういう現状なんです」

精神科医は今も足りていない状況ですが、精神障がいを持つ当事者や家族が集まるセルフヘルプグループは徐々にできつつあると言います。

シエラレオネにある精神障がい者リハビリテーションセンター

「こういった家族会などの取り組みは、コミュニティー(共同体)ベースのケアをする上で非常に重要です。そこで、日本の精神障がい者や家族が実践してきたセルフヘルプの知見を、シエラレオネで活用できないかと考え、研究を進めています」

なるほど、これまで日本が得てきた知見を途上国で応用するための研究なんですね。

「これまで日本は、アメリカやイギリスのソーシャルワークの実践モデルや社会福祉制度から多くを学び、日本流のソーシャルワークを確立してきました。日本がそうやってテイクしたものを、今度はギブできるのではないかと考えています」

今問い直される、ソーシャルワークのあり方

逆に、アフリカでの研究を日本のソーシャルワークに活かせることはあるのでしょうか。そんな疑問を投げかけると、「開発的ソーシャルワークは今後日本でも重要になる」と金田先生。

「アフターコロナの社会がどうなっていくのかまだわかりませんが、経済的な不安は大きくなるでしょうし、社会福祉の世界にもきっとしわ寄せがいくと思います。これまでのようなソーシャルワークの枠組みからこぼれ落ちてしまう人が、今後は増えていくかもしれません。そうなった時、既存のサービスを調整して提供したりするだけでなく、自分たちで何かを作り出していくパイオニア的な精神や、行動に移す瞬発力が求められるのではないでしょうか」

金田先生は、社会資源が少ない時代からソーシャルワークに携わってきた先輩たちの思いを受け継ぐことの大切さを語ります。

「大先輩たちは<なければ自分たちで作る>という精神で、道を切り拓いてきたと思うんです。もう一度、そういう開発的な視点でソーシャルワークを考えていくことが必要なんじゃないかと思います」

「自分にもできることはあります。まずは社会に関心を持ってほしい」と金田先生

ソーシャルワーカーの先輩から聞いた、ある言葉が心に残っていると金田先生は続けます。

「その人は1960年代から精神科のソーシャルワーカーとして精神科病院で働き、退職後は私財を投げうって、精神障がい者の方々と暮らす施設を作って運営されています。その人が『私はあまり先のことは考えないんだ』とおっしゃったんです。『先のことを考えても不安になるばかりだから、とにかく今、目の前にいる、困っている人たちをどうやったら助けられるかを最優先してきた』というお話を聞いて、確かにそうだなと思ったんです。先の計画ばかりを考えていると、今ここにある大切なことを見失ってしまうなとすごく感じました」

「持続可能な」を意味するサステイナブルというワードが、何においても重視されがちな時代。先のことばかり考えて今をないがしろにしていないかと、思わずハッとさせられます。

「サステイナブルな支援はもちろん必要です。でも一方で、とにかく今、目の前の人たちを助けたいというアンサステイナブルな視点も、ソーシャルワークにはあってもいいんじゃないかと思うんです」

先が見えない世の中で、サステイナブルな視点とアンサステイナブルな視点の両方を持っておくことは、ソーシャルワーカーに限らず現代を生きるすべての人に必要なのかもしれません。

もう一つ、金田先生のインタビューで印象的だったのは、アフリカと日本の文化的な違いについてのお話。

シエラレオネのクリスマス。教会はコミュニティーにとって大切な場

「アフリカは社会資源が少ないがゆえに、依存する社会というか、家族やコミュニティーに頼る文化があると感じます。一方日本は、他人に迷惑をかけてはいけない、自分でなんとかしなくちゃいけないという自己責任や自立の意識が強い。だからなかなか『助けて』って言えないんですよね。でも自分の弱みを見せて助けてもらうことで、できていく関係性もあると思うんです」

「自助」や「自己責任」といった言葉が飛び交い、どこか息苦しさを感じる現代の日本。「助けて」と当たり前に言い合えるアフリカから学ぶべきことがたくさんあるのかもしれないと感じました。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

祈りよ力となれ リーマ・ボウイー自伝

リーマ・ボウイー、キャロル・ミザーズ 著、東方雅美 翻訳

英治出版発行 2012

アフリカのソーシャルワークについて知りたい方に、と金田先生がおすすめしてくれた一冊。著者のリーマ・ボウイーは、内戦が激化するリベリアで、女性たちによる<平和への大衆行動>を立ち上げ、停戦実現への大きな役割を果たした平和活動家。その功績を称えられ、2011年にノーベル平和賞を受賞しています。ソーシャルワーカーでもある彼女は、内戦で心的外傷を負った兵士の治療に携わってきました。彼女の自伝を通じて、リベリアの内戦についてはもちろん、アフリカのソーシャルワーカーの意義や活動について知ることができます。

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