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いま私たちにできることは? ファッションを通じて社会課題に向き合う

私たちが毎日身に付けている洋服。
単なる生活必需品ではなく、好きな服を身にまとうことは自己表現の一つでもあり、ファッションは気分を上げてくれる存在でもあります。

そんなファッション産業が、石油産業に次いで世界で2番目に環境を破壊している産業だと言われているのをご存じでしょうか。
大量生産・大量消費・大量廃棄によって生じているのは環境問題だけではなく、安価で手に入るファストファッションを支える人々の過酷な労働環境も問題視されています。
「エシカル」や「サステイナブル」を掲げてファッションに取り組む企業も増える中、私たち一人ひとりが生活者としてできることは何でしょうか?

神戸女学院大学の卒業生であり、在学中からずっとファッションを通して社会課題に取り組んできた西側愛弓さんとの対話から、さまざまな社会課題に向き合うために大切なマインドが見えてきました。

PROFILE

西側 愛弓さん株式会社coxco代表、NPO法人DEAR ME代表

神戸女学院大学卒業後、IT企業でのネット広告の営業を経て独立。学生時代にフィリピンの貧困地区で暮らす人々にファッションを通じて支援する活動を始め、現在はNPO法人を設立し継続。教育機会の提供やファッションブランドを立ち上げ、ファッションによる社会課題の解決をめざしている。

貧困を目の当たりにした学生時代の旅が原点

大学3年生の時に「DEAR ME」というプロジェクト(現在はNPO法人)を立ち上げ、フィリピンの貧困地区で暮らす子どもたちがモデルとしてランウェイを歩くファッションショーを開催している西側さん。

この活動を始めたきっかけは、海外を訪れた時に目にした貧困地区の現状でした。

「私はファッションが大好きで、世界の国々を旅してストリートスナップを撮影し、雑誌を制作する活動をしていました。旅を通して感じたのは、どんなに華やかに見える場所にも貧困があるということ。大学生の貧乏旅行だったので、貧困層の人たちが暮らしているエリアに宿泊する機会が多かったんです。そこにはボロボロの服を着た子どもたちがたくさんいて、日本では目にしたことがない光景だったのですごくショックでした」

西側さんは、自分がファッションを好きになったことも、旅をして雑誌を作るという挑戦をしていることも、それができること自体が恵まれた環境で、決して当たり前ではなかったと気づきます。

「貧困を目の当たりにして、自分がこれまで持っていた当たり前という概念が覆されました。私はファッションを通して自分の夢ができて、人生が変わったと思っているので、今度はファッションを楽しめない環境にいる人たちに、何かアプローチしたいと思いました」

そこで西側さんが考えたのが、現地でのファッションショーの開催。寄附や物資支援といった方法もある中で、なぜファッションショーなのでしょうか。

「もちろん物資支援も重要だと思いますが、それで本当に社会は変わるのかなという疑問がありました。自分が何かするなら、みんなで一緒に経験できるようなことがしたいと考えた時に、ファッションショーが思い浮かんだんです。ランウェイを歩く時って、下を向かないですよね。みんな胸を張って歩く。どんな環境で育っても、みんなで胸を張って生きていける、そんな決意を表すような場を作りたいなって」

フィリピンでのファッションショーの様子

ファッションショーを開催して、「ファッションにはエンパワメントする力がある」と実感したと語る西側さん。ショーの動画や写真を見せていただくと、目をキラキラと輝かせる子どもたちの姿から、その力が伝わってきます。

2015年に始まったこのファッションショーは、その後も神戸女学院大学や他大学の後輩たちに受け継がれ、現在までに計7回開催されてきました。でも西側さんは、「この活動をファッションショーだけで終わらせてはいけない」とずっと葛藤してきたと言います。

「どれだけスポットライトを浴びてランウェイを歩いたとしても、夜になるとみんなスラムへと帰っていく。これまでの暮らしに戻ってしまうんです。だからショーだけでは絶対に終わらせない、自分の人生をかけて取り組んでいくと決めていました」

教育とビジネスの面から貧困問題に取り組む

西側さんは今、フィリピンでファッションスクール「coxco Lab(ココラボ)」を開校する準備を進めています。貧困地区で暮らす人々が通えるように、数社の企業の協力を得て、授業料は無償に。さらに「卒業後の雇用先にも責任を持ちたい」と、自身のファッションブランド「coxco(ココ)」を立ち上げました。

「スクールで職人を育てるだけでなく、自分のブランドでしっかりと雇用も生み出したい。スクールとブランドを循環させていくことで、教育面でもビジネス面でも貧困問題を解決していきたいと考えています」

20209月に開校予定だったスクールは、新型コロナウイルスの影響で延期中ですが、ブランド「coxco」は20205月からすでに始動しています。「coxco」の洋服は、廃棄ペットボトルの再生素材を使ったスカート、糸の裁断クズなどをアップサイクル ()して作られたニットなど、環境に配慮した素材を積極的に取り入れているのが特徴です。

※アップサイクル:不要となったものにデザインや技術によって新しい価値を付与し、元の状態より価値が高い新たなものに転換する取り組み

取材時のニット、シャツ、もちろんスカートも「coxco」のアイテム。シャツはサンプル用としてつくられた生地をアップサイクルしたもの

「ファッション産業は、環境破壊や労働環境の問題といったさまざまな課題を抱えています。私がこれまでずっと関わってきた貧困も含めて、あらゆる社会課題はつながっていると思うんです。だから、自分のブランドでは環境や労働の問題にも配慮したものを提案しています」

そんな「coxco」のブランドサイトには「私たちがつくるものは服ではありません。服のかたちをした、社会課題と向きあうメディアです」と書かれています。「服のかたちをしたメディア」とは、いったいどういうことでしょうか?

「coxcoの洋服は、一つひとつに伝えたいメッセージを込めて作っています。その服を身に着けることで、着る人も一緒に社会課題に挑戦するような体験を作っていきたい。たとえばTシャツは、背中のタグに付いているQRコードを読み込むと、作られた背景や生産者さんについて書かれたページを見ることができます。『そのQRコードは何?』という会話から、『このTシャツはインドのオーガニックコットンで作られていて、インドの綿農家さんをサポートできるんだよ』といったコミュニケーションが生まれたら良いなと思っています」

着ている人が“メディア”になるQRコード付きのTシャツ

服を着た人自身が一つの媒体になる。まさに「服のかたちをしたメディア」ですね。服を買うだけ、着るだけではなく、そこから広がっていくコミュニケーションを想像するとワクワクした気持ちになります。

「服の形をしたメディア」だから伝えられること

「coxco」はオンラインショップだけでなく、百貨店などでポップアップショップを展開しています。店頭でお客さまと実際に接する中で、西側さんはどんな手ごたえを感じているのでしょうか。

「最近はSDGsという言葉も定着して、特にこの1年ほどで関心がぐんと高まっているのを感じます。ポップアップショップには高校生や大学生もたくさん来てくれて、若い方たちがブランドに共感して応援してくださっていることにすごく希望を感じますね。先日、19歳の女の子が『もうすぐ20歳の誕生日なので、自分へのプレゼントにcoxcoのワンピースを買いたいです』と言って来てくれたんです。うれしくて思わずうるっときてしまいました(笑)」

生産過程も重視した「coxco」のワンピースは、19歳の女の子にとってはリーズナブルではない、大きな買い物のはず。自分が共感できるブランドの服を買おうと思ってお金を貯めたのかな……と想像して、筆者も思わず胸が熱くなりました。

しかし、こういった反響から関心の高まりを感じる一方で、二極化も同時に感じていると西側さんは語ります。

「関心を持つ人は確実に増えていますが、全く関心がない人たちがいることも実感しています。今の時代、web広告は興味関心があるものしか出てこないですし、SNSも自分が好きな人やブランドをフォローするから、好きなものの情報しか目に入ってこないですよね。情報を自分で取捨選択できる時代なので、興味関心のない人には永遠に届かないということが起こってしまうんです」

だからこそ、「coxco」が「服のかたちをしたメディア」であることに意味があると続けます。

「coxcoは服がメディアになっているからこそ、新聞や雑誌といった従来のメディアとは違う角度から社会課題を伝えられる可能性がある。興味関心を持っていない人の目にも触れられるチャンスがあるんじゃないかなと思っています」

まずは想像してみる。社会課題に向き合うために

「ファッションで社会課題を解決する」という大きな目標に向かって、ひたむきに進み続ける西側さん。私たちはまず何から始めたら良いのでしょうか?と問いかけると、悩みながらもこんなふうに話してくれました。

「自分が今持っている物やほしいと思った物に対して、どこで誰が作ったんだろう、どんな素材で作られているんだろうと、まずは想像してみることがすごく大切。想像してみたら、たぶんわからないことだらけだと思うんです。でも、わからないで終わらせるんじゃなくて調べてみるとか、そういう一つずつのアクションで消費の仕方や物の扱い方が変わってくるんじゃないかな」

洋服のタグを見て、生産国や素材を確認してみる。極端に安価な物があれば、なぜ安いのかと考えてみる。まずは知ろうとすること、想像することから、行動が変わっていくのかもしれません。

でも、環境や労働の問題に思いを巡らせると、何を選べばいいのかわからなくなったり、罪悪感を抱いてしまったりして、しんどさを感じてしまうことも……。そんなことを言っても良いのかなと思いながらも気持ちを打ち明けると、西側さんは「めっちゃわかります」と何度も頷いてくれました。

「自分の心を健康に保ちながらどうやって続けていけば良いのかなって、私も悩んだことがありました。でも、しんどいことはやっぱり続かないですよね。より良い社会を考えて向き合っていくことは、決してしんどいことじゃなくて、自分の心も豊かにしていくことなのかなって思います。私自身、このジュエリーはこんな職人さんが作ったとか、背景を知れば知るほど、本当に大事に使おうと思えるようになって、心がすごく豊かになったと感じます」

「この指輪は愛媛県宇和島のパールを使ったもので、職人さんの手仕事。市場に出せない変形パールを使っていますが、それが味わいになります」と西側さん

社会課題に取り組んできた西側さんも、しんどさと向き合い乗り越えてきたんだと知ると、なんだか勇気づけられます。西側さんの強い思いと実行力をまぶしく感じながらも、私たちにできることがもっとあるはずと背中を押してもらったような気がしました。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』

2015(アメリカ/93分/カラー)

「ファッション産業をめぐる社会課題について知りたい方に、とてもわかりやすくておすすめです」と西側さんが紹介してくれたドキュメンタリー映画。きらびやかなランウェイからスラムまで世界中で撮影されたもので、ファッションデザイナーのステラ・マッカートニーや環境活動家のヴァンダナ・シヴァへのインタビューも含まれています。2016年にはDVDも発売されているので、知るための初めの一歩として手に取ってみては。

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