門戸厄神エリアの魅力を発信! 地域創りに取り組む学生と門戸さんぽ
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「ボケたんだから、ちゃんとつっこんでよ」
そんなふうに相手からツッコミを求められた経験はありませんか?
何度か繰り返されてきたお笑いブームを経て、今や全国区となっている関西のボケとツッコミの文化。
特にお笑い好きというわけではない人でも、普段の会話の中で意識したことがあるかもしれません。
そんな私たちにとって身近なボケとツッコミについて研究している先生がいると聞き、お話を伺うことにしたのですが、なんとその先生はノルウェー出身。
外国から日本にやって来た先生が、なぜボケとツッコミに興味を持ったのでしょうか?
ボケとツッコミの研究とは、いったいどんな内容なのでしょうか?
文学部英文学科准教授のヴォーゲ・ヨーラン先生に、詳しくお話を伺いました。
大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻博士後期課程修了、専門は社会言語学。「ことばあそびとユーモア」「関西方言とボケとツッコミ」「DNA研究と言語・文化の起源」などをテーマに研究を行っている。
ノルウェー第二の都市であるベルゲンで生まれ育ったヴォーゲ先生は、大学時代に国費留学生として訪れた日本に魅せられ、卒業後に再来日して日本の大学院に進学。以来18年間、日本で暮らしています。
社会言語学を専門とするヴォーゲ先生は、なぜボケとツッコミを研究対象として取り上げたのでしょうか?
「ずっと関西で暮らしてきたので、自然にボケとツッコミに興味を持ちました。友達と飲みに行くのが好きなんですが、関西人はお店の人とよくおしゃべりしますよね。その会話の中で、友達から『そこはつっこまなあかんやろ!』とツッコミを求められることがあって。でも初めは良いタイミングでツッコミができずに、『もっとこう言えば良かった』と後悔することもありましたね(笑)」
流暢な関西弁で当時を振り返るヴォーゲ先生。外国人にも容赦なくツッコミを求める関西人と、戸惑いながらも真面目に取り組むヴォーゲ先生の姿を想像すると、可笑しさがこみ上げてきます。
「今はたぶん良いタイミングでつっこめるし、自分からボケることも結構あります。まさか外国人からボケが来ると思っていない人が多いので、反応がないこともありますけど(笑)。僕のことを知っている人だったらつっこんでくれますね」
今やすっかりボケとツッコミを使いこなしているヴォーゲ先生は、「聞く・話す・読む・書く、この4つが英語4技能と呼ばれていますが、関西の場合はボケとツッコミが技能の一つですね。関東では、関西ほどは求められないですけど」と笑います。
関西人と非関西人を比較したヴォーゲ先生の研究では、「会話の中でボケることがある」「相手がボケたら、すかさずつっこむ」「会話にオチが必要だと思う」といった設問に対する回答から、関西人のほうがより笑いを重視している傾向が見られます。
筆者は生まれも育ちも大阪なので、上記の関西人の回答には共感できます。逆に、非関西人はそんなに笑いを求めていないんだなと、ちょっと意外に感じました。
そこでふと思い出したのが、ときどき非関西人から言われる「関西人は面白いよね」という言葉。面白くない関西人だっていっぱいいるのに……と少し抵抗を感じてしまいますが、実際、関西人は非関西人と比べて面白い人が多いのでしょうか?
「調査結果から、関西人のほうが笑いを重視していることやツッコミを入れる頻度が多いことはデータで示せますが、実際に関西人が面白いのか、そうだとしたらなぜ面白いのか、科学的に説明するのは難しいですね。『関西人は面白い』というステレオタイプがあるのは、一つはテレビで芸能人が関西弁で話している影響だと思います。もう一つは、やはり文化的な影響。関西で生まれ育った人が、自然にスキルとして身に付けているという側面もあると思います。僕の子どもも、1歳10ヶ月くらいでツッコミを覚えていましたよ」
まさか1歳10ヶ月でツッコミができるとは、かなり習得が早いような……(笑)。さすが、ボケとツッコミを研究する先生のお子さんですね。
「あとは、小さい頃から『関西人は面白い』と言われて育つから、という側面もあるかもしれません。たとえば、日本では血液型でよく性格診断をしますが、厳密に言えば科学的根拠はないわけですよね。でも『あなたはA型だから几帳面』と言われ続けることで、自然とそう振舞ってしまうということは起こり得ると思います」
なるほど、「関西人は面白い」と期待されることで、スキルが身に付くという面もあるんですね。どんなステレオタイプでも、周りから言われるうちにいつの間にか影響を受けてしまっている場合があるのかもしれません。
関西人と非関西人を比較する研究のほかにも、ボケた後のツッコミまでの「間」を計測したり、ボケとツッコミのパターンをグラフ化したりと、さまざまな研究を行っているヴォーゲ先生。日本国内だけでなく、国際学会でも何度か発表したと言います。
「海外には漫才のような、ボケとツッコミに相当する笑いの文化がないので、伝えるのが難しいんです。どうやって海外の人でもわかるように説明すればいいのか、それが一つの課題ですね。逆に、欧米で主流となっているスタンドアップコメディやシットコム(シチュエーションコメディ)を日本の学生に見せても、なかなか理解しづらいようです。おそらくどんな分野でも、誰もが自分のバックグラウンド、つまり自国の文化や母語を当たり前だと思ってしまうので、異文化を理解するのが難しい面がありますね」
確かに、私たちがスタンドアップコメディやシットコムを見てもピンとこないのは、単純に語学力の問題だけではなく、文化の違いが大きいのかもしれません。
「もちろん一つ目としては、語学の問題があります。相当上級者でないと、外国語での笑いは理解しにくい。二つ目が文化の違い、そして三つ目が笑いの構造の違いです。三つともクリアできないと笑えないんですね」
日本と海外では、どんなふうに笑いの構造が異なるのでしょうか?
「日本では、ボケとツッコミに代表されるように、会話のやりとりの中から生まれる笑いが主流ですが、欧米ではストーリーを語るような笑いのパターンが多いです。一言で欧米と言っても、アメリカとヨーロッパでもまた違っていて、ヨーロッパはアイロニー(皮肉)の要素が大きいですね」
さらにヴォーゲ先生は、アメリカのジョークを例に挙げて説明します。
「アメリカ、特に黒人文化では、Your mama jokeという相手の母親を馬鹿にするタイプのジョークがあります。『あなたのお母さんは○○だよね』『いやいや、あなたのお母さんほどひどくない。あなたのお母さんは○○だよね』と言い合うゲームみたいなものです」
それは日本で言うところの「お前の母ちゃんでべそ」ですね。今時あまり聞きませんが……。
「今だったら、日本では『うちのオカンが~』と自分の母親の話をするパターンが多いんじゃないかな。自分の身内のグループを低く言って笑いにする。笑いに関わらず、たとえば子どもが小さい時にママ友やパパ友同士で『うちの子なんて全然ダメで』と言い合うのも同じ構造ですね。海外ではあまりそういう言い方はしないです。日本特有の“内と外”の文化が現れていると思います」
身内を下げるのが美徳とされるような文化が、笑いにも影響しているんですね。Your mama jokeと「うちのオカン」トーク。笑いの構造の裏側には、さまざまな文化的背景があることがよくわかります。海外の笑いを楽しむには、異文化理解が必須と言えそうです。
最後に、研究の今後の展望についても伺うと、「海外にはボケとツッコミに相当するものがないと言いましたが、あまり浸透していないだけで、実は似たようなものはあるんです」とヴォーゲ先生。
「たとえばイギリスで70年代に放映されていた『Fawlty Towers』というドラマでは、スペイン人のウェイターがボケて、イギリス人のオーナーがツッコミのようなリアクションを取っています。この2人のやりとりを、日本のボケとツッコミのパターンと照らし合わせて研究してみたいと考えています」
他にも、世界にはさまざまなツッコミがあるとヴォーゲ先生は続けます。
「ノルウェーでも、小さい子どもにお母さんがノリツッコミをしてあげるシーンを見ることがあります。エッグスタンドの上に空の卵を載せて、子どもが『はい、どうぞ』と渡してきたら、『優しいね、ありがとう。いただきます』と一旦乗ってあげて、『何も入ってないやん!』みたいな(笑)。探してみると、世界にも色々なパターンがありそうなので、いつか世界のツッコミを集める研究もしてみたいですね」
日本の笑いの文化に関する研究はたくさんあっても、海外と比較する研究は少ないのだとか。「たとえば古典を読んで研究するのであれば日本人のほうが向いているかもしれないけど、海外との比較研究や海外への発信は、他の誰よりも僕ができることかなと思います」とヴォーゲ先生は抱負を語ってくれました。
ノルウェー出身のヴォーゲ先生だからこそできる笑いの研究が、今後どんなふうに展開していくのか楽しみです。笑いというフィルターを通して異文化を理解するという新鮮なアプローチに、わくわくするひとときでした。
(ライター:藤原 朋)
定延利之編
ひつじ書房発行 2018
編者の定延先生が主催する「わたしのちょっと面白い話」プロジェクトでは、一般の人が「面白い話」を語る動画を集め、毎年コンテストを開催しています。この本は、プロジェクトで集まった「面白い話」をもとに、研究者たちが執筆した論文をまとめた一冊。ヴォーゲ先生は「やりとりから生まれる面白さについて―『ちょっと面白い話』のツッコミを中心に」という論文を寄稿されています。本文中に登場したボケとツッコミのグラフも紹介されているので、もっと深く知りたくなった人は手に取ってみては?
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