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Research

何気なく飲んでいる薬がメダカに影響!? 身近なものから考える環境問題

SDGsという言葉もすっかり定着した昨今。
エコバッグやマイボトルを持ち歩くなど、自分にできることから始めている人も多いのではないでしょうか。

今回お話を伺うのは、SDGsが採択される20年以上前から環境問題に関する研究に携わっている、人間科学部環境・バイオサイエンス学科教授の横田弘文先生です。
横田先生は、医薬品や化粧品、不織布マスク、フリース素材の服など、私たちにとって身近なものが、思いもよらないところで環境生物(すべての生物)に影響を与えてしまう可能性があると指摘します。
横田先生のお話から、日常生活を通して環境問題を考える多くの気づきやヒントを得ることができました。

PROFILE

横田 弘文さん環境・バイオサイエンス学科 教授

九州大学大学院生物資源環境科学研究科博士後期課程修了。博士(農学)。一般財団法人化学物質評価研究機構を経て、2010年より神戸女学院大学に着任。専門は生態毒性学で、研究分野は、環境中に放出された医薬品やマイクロプラスチックの水生生物に対する影響評価、兵庫県南部に生息する野生メダカの遺伝子型解析、試験困難物質の生態毒性評価など。化学物質審査規制法審査支援等検討会委員。

医薬品が環境生物に与える影響とは?

もとは水産学部出身で、魚の免疫について研究していた横田先生。前職の化学物質評価研究機構でたまたま生態毒性学の部門に配属されたことが、この分野に携わるきっかけだったと言います。ところで、生態毒性学とはどのような学問なのでしょうか。

「大きく分けると毒性学と生態毒性学の二つがあって、さまざまな物質が人に対して影響するかどうかを調べるのが毒性学、環境生物に影響するかどうかを調べるのが生態毒性学です。実は日本の生態毒性学は、欧米と比べると20年くらい遅れているんです。私が研究を始めた頃は、環境生物への影響もきちんと調べないといけないということが日本ではまだ法的に求められておらず、ほとんど研究が進んでいませんでした」

まだ新しい研究分野ながら意義のあるものだと感じた横田先生は、この分野を自ら発展させていきたいと、化学物質評価研究機構で10数年勤務したのち、神戸女学院大学に移ってからも引き続き研究に取り組んできました。

横田先生の主な研究テーマの一つが、医薬品。中でも解熱鎮痛剤に注目して、研究を進めています。

「私が神戸女学院に来た2010年頃、医薬品が河川など環境中にたくさん流れ出ていることが明らかになり始め、国際的に大きな問題になっていました。そこで、医薬品の中でも特に学生たちにとって身近な解熱鎮痛剤を取り上げることにしました」

そもそもなぜ、河川に医薬品が流れ出ているのでしょうか。薬をポイ捨てする人もいないでしょうし……。不思議に思って尋ねてみると、横田先生が詳しく説明してくれました。

「私たちが必要以上に薬を取り込んだ場合、体内で処理しきれずにそのまま尿や便で排泄されてしまうというルート。それから、薬は体内で代謝されて違う物質になってから排泄されるのですが、下水処理場で微生物の力によって元の薬の成分に戻ってしまう場合があります。当然ながら、多くの人が服用する薬であればあるほど環境中に出ていきやすい。その代表たるものが解熱鎮痛剤ですね」

なるほど……。薬を直接捨てていなくても、さまざまなルートで環境中に排出されているんですね。普段何気なく飲んでいる薬が河川に流れ出ているなんて、考えたこともありませんでした。

学生の気づきが「メダカの下顎欠損」の発見に

解熱鎮痛剤の医薬品成分がメダカにどのような影響を与えるのか、2013年度の卒業研究で学生たちと共に調べていた横田先生。薬の薬理作用から、魚の繁殖に影響が出るのではないかという仮説を立てて実験を進めていたところ、仮説通りの結果が得られました。しかしこの実験が、さらに思わぬ発見につながります。

「ある日突然、学生たちが私のところにやって来て、『先生、大変です。メダカの下顎(あご)がなくなっています』と言うんです。すぐ確認したところ、下顎が欠損しているメダカが数匹いました。1匹だけなら、変わった形状のメダカが初めから混ざっていたのかもしれないと考えますが、複数いたのでもしかしたらと思ってもう1回実験することにしました」

再度実験をすると、また同じ結果に。学生たちが「もう1回やらせてほしい」と言うので3回目の実験を行ったところ、また同じ現象が起きたと言います。

3回とも下顎の欠損が起こったので、これは本物だということで、彼女たちが卒論発表をした後、すぐに私が英訳して専門雑誌に発表しました。下顎が、しかもオスだけ欠損するという発見は世界初でしたので、大きな反響を呼びました。この発見は全くの偶然、いわゆるセレンディピティです。サイエンスの世界では、セレンディピティが時に重大な発見につながるわけです」

院生の指導にあたる横田先生。機械にメダカの遺伝子などの検体を入れると、分析結果が表示されるそう

思わぬ発見をきっかけに、この現象のメカニズム解明に取り組んできた横田先生。なぜ下顎だけ欠損するのか。なぜオスだけなのか。他の解熱鎮痛剤でも起こるのか。メダカ以外の魚にも生じるのか。毎年実験を重ね、一つひとつ解明してきました。

2021年度には私の研究室の大学院生が、なぜ下顎欠損が起きるのか、遺伝子レベルでの解析に取り組んでくれました。まだ完全解明には至らないのですが、どの遺伝子が関係し、おそらくこういうメカニズムが起こっているだろうというところまで解明できました。彼女はその研究成果を関連学会で口頭発表し、若手研究奨励賞を受賞しています」

2022年度は、さらに実環境に近い状態でも研究を進めていく予定だと言います。

「解熱鎮痛剤の中には、下顎欠損を起こすものと起こさないものがあることもわかってきました。でも実際の環境中では、さまざまな種類の解熱鎮痛剤が混ざり合って、低濃度で同時に存在していますよね。ですから、その状態で欠損が起きるのか起きないのか、実環境をシミュレートした形で実験していこうと考えています」

日常生活に潜むマイクロプラスチック問題

医薬品と並び、横田先生が注力している研究テーマが、マイクロプラスチック。ここ数年、SDGsに関連して話題になることが多いマイクロプラスチック問題は、学生の関心も非常に高いそうです。

横田先生はこれまで、マイクロプラスチックが水生生物に及ぼす影響について、ミジンコを使って研究してきました。

「マイクロプラスチックがミジンコの体内にどのように取り込まれ排出されるのかを調べたところ、エサである植物プランクトンと一緒に食べ、比較的速やかに排出していることがわかりました。実験で用いるきれいに整形されたマイクロプラスチックに限って言えば、体内に蓄積してしまうリスクはあまりないようです」

実験室の入り口では、ミジンコのペーパークラフトが出迎えてくれました

そこで今着目しているのが、マイクロプラスチック単体ではなく、汚染物質を吸着したマイクロプラスチックだと横田先生は続けます。

「マイクロプラスチックが海を漂っている間に、海水中に溶け出しているさまざまな汚染物質を吸着してしまう、ベクター効果と呼ばれる現象があります。ベクターは運び屋という意味。汚染物質を吸着したマイクロプラスチックを水生生物が取り込んだ時、表面に付着している汚染物質が体内で溶け出し、影響を及ぼしてしまうんです」

さらに、マイクロプラスチック問題で今最も問題視されているのが、私たちの洋服だと横田先生は指摘します。

「最近問題になっているのは、マイクロファイバー、つまりプラスチックの粒ではなく繊維です。フリースなどの合成繊維の服を洗濯すると、服から細かい繊維が抜けて下水に流れ込みます。マイクロファイバーは非常に小さいので、多くは下水処理場で処理できずそのまま素通りして海に流れ出てしまいます」

マイクロプラスチック問題と言えば、レジ袋やプラ容器などを意識していましたが、服の洗濯が大きな影響を及ぼしていたとは……。1回の洗濯で70万本以上のマイクロファイバーが放出されているというデータもあると聞いて驚いていると、「実は私たちが今付けているマスクも問題視されているんですよ」と横田先生は不織布マスクを指差します。

「日本では燃えるゴミとしてきちんと処理される場合が多いですが、諸外国では大量のマスクが放棄されて、河川や海に流れ込んでいます。海洋生物がマスクの紐に絡まってしまう事故も起きていますし、マスクが海を漂っている間に紫外線や波の力でボロボロになって、マイクロファイバー化するケースもあります。マイクロプラスチック問題において、レジ袋の次に使い捨てマスクが大々的に問題になるかと思います」

横田先生の今後の研究では、マスクも含めて今後より大きな問題となってくるマイクロファイバーに研究対象を移していくそうです。

レジ袋を何枚断った?気づくことが最初の一歩

医薬品やマイクロプラスチック、マイクロファイバーに関する研究が目指すゴールについて、横田先生は次のように語ります。

「化学物質による環境への影響を最小限化する、というのが国際的な目標なんです。人間が活動している以上はゼロリスクにはならないので、影響を『なくす』ではなく『最小限化する』としていることが、非常に大きなポイントです。極端に言うと、人間の活動そのものが何かしら環境に負荷を与えています。それに気づくことが最初の一歩かなと思いますね」

ゴミをポイ捨てしているわけではなくても、毎日の生活の中で使っている身近なものが環境への負荷になっている。そのことに気づいた時、私たちはどのようなアクションを起こしていけば良いのでしょうか。

気づきを行動に移すきっかけとして、横田先生は授業の中で学生たちにさまざまなアプローチをしています。たとえば、1週間のうちにレジ袋を何回断ったか数え、それを1年間積み重ねるとどれくらいの数になるのか、そしてどの程度の原油削減やCO₂削減につながるのか、計算してみるという授業を行っています。レジ袋使用を振り返ることは、学生だけでなく、私たちも考えるきっかけになりそうですね。

環境バイオサイエンス学科の1年生ゼミ(横田担当)の中でのグループワークの一例。学生4人が、1年間で辞退したレジ袋の量とCO₂排出削減量をグラフにしたもの

「きちんと計算して、定量化して理解することがとても大切です。何のためにやるのかという気づきの一つですね。レジ袋をきっかけに、プラ容器、プラスプーンはどうなのかと、学生の意識はどんどん広がっていきます」

他にも、化粧品の防腐剤として使われているパラベンや、シャンプーに含まれる界面活性剤など、身近な商品を題材にして授業や実習を行っています。

「身近なものが、実は環境負荷を与える恐れがあるという気づきを最初のステップとして、考えたり行動したりするきっかけにしてもらえたらと思っています。医薬品にしてもプラスチックにしても、研究内容を一般消費者の方に理解してもらうのはなかなか難しいことですが、その橋渡しをすることが研究者、教育者の大切な役割だと考えています」

最後に横田先生は、今後の研究について次のように話してくれました。

「医薬品とマイクロプラスチックの問題については、環境生物への影響を引き続きしっかり解明していきたいです。そして、私たち人間のメリットになる物質でありながらも、できるだけ環境の負荷にならないような物質とは何なのか、追い続けていきたいと思っています」

環境負荷の少ない物質の一つとして、横田先生が2022年度から研究対象として取り上げようとしているのは、セルロースナノファイバー。プラスチックの代替素材として、今世界中が注目している新素材です。

「セルロースナノファイバーは、木材の繊維の主成分であるセルロースをナノレベルの繊維状にしたもので、今さまざまな産業で実用化されつつあります。原料が木なので環境に優しいと言われていますが、毒性が本当に生じないのか、まだまだこれから検証が必要です」

このセルロースナノファイバーをはじめ、今後は人間が作り出した人工物ではなく、天然素材をいかに改良して人間の活動に利用していくか、それが21世紀のキーワードになっていくのではないかと、横田先生は希望を込めて締めくくってくれました。

横田先生のお話から、環境負荷の少ない新素材への期待が高まります。とはいえ、次世代の素材に切り替わっていくのは、まだ少し先の話。環境負荷を最小限にするためにできることを、小さなことからでも続けていきたいと思います。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

脱プラスチック データで見る課題と解決策

ナショナル ジオグラフィック編
日経ナショナルジオグラフィック社発行 2021

「マイクロプラスチック問題について詳しく知りたい方に」と横田先生が紹介してくれた本。写真やイラスト、グラフを多く用いて、プラスチックによる環境問題をわかりやすく「見える化」した一冊です。日常生活のさまざまな場面でプラスチックを使わない選択肢を提案し、それらを実践するための工夫もたくさん紹介されているので、学ぶだけでなく何かアクションを起こしたい人にぴったり。一歩踏み出すきっかけとして手に取ってみては?

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