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Culture

豊かな発想力の源とは?人気作曲家の曲づくりから学ぶ、アイデアの種の育て方

うれしい時や楽しい時の気分をさらに高めてくれたり、落ち込んだ時にそっと寄り添ってくれたり。音楽は私たちの日常のさまざまな場面を彩る大切な存在です。
心を激しく揺さぶるような楽曲や、思わず口ずさんでしまう親しみやすいメロディは、どのようにして生まれているのでしょうか。

今回は、作曲家として第一線で20年以上活躍している、音楽学部音楽学科の八木澤教司先生にお話を伺います。人気作曲家の頭の中を覗いてみると、アイデアの種の育て方や生かし方、仕事への向き合い方など、私たちの普段の生活や仕事にも取り入れられそうなヒントがたくさん見えてきました。

PROFILE

八木澤 教司さん音楽学科 専任講師

作曲家。武蔵野音楽大学作曲学科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程修了。代表作は日本だけでなく各国でも演奏されている。2020年より神戸女学院大学に着任し作曲、吹奏楽、音楽理論の指導にあたる。東日本大震災復興シンボル曲「あすという日が」がNHK紅白歌合戦で歌われる他、2019年の天皇陛下御即位奉祝記念式典・国民祭典、東京2020パラリンピック開会式において作品が抜擢。各種コンクール審査員、客演指揮など活動は多岐にわたる。第21回日本管打・吹奏楽 アカデミー賞[作・編曲部門]受賞、平成23年度 JBA下谷奨励賞を受賞。

対話から生まれる、オーダーメイドの曲づくり

吹奏楽曲を中心に、アンサンブル曲や合唱曲など数多くの曲を手がけている八木澤先生。その作品数は吹奏楽曲だけでも200曲以上に及びます。

「よく皆さんから『どんなふうにメロディが降ってくるんですか』なんて聞かれるんですけど、僕の場合はただ自分が書きたいものを表現しているというより、オーダーメイドで曲を作っている感覚ですね。実は僕が制作しているのは、95%以上が依頼作品なんです。どの団体がいつ演奏するのか決まっていて、その依頼がありがたいことに23年先まで詰まっているのが現状です」

そんなに先まで予定が詰まっているとは……。依頼作品ということは、ある程度テーマが決まっているのでしょうか。

「こういうテーマで書いてほしいという依頼もあれば、お任せでお願いしますと言われるケースもありますね。どんな場合でも、まずはリサーチから始めます。その楽団の演奏はどんな音がしているのか、指揮者はどんなジャンルが得意なのかなど、リサーチを進める中で、例えばフルートの学生さんがすごくいきいきと吹いていたのが印象に残って、曲のアイデアにつながったこともあります」

コラール(賛美歌風な音楽)のフレーズは八木澤作品のトレードマーク。作曲の際にはマンネリにならないよう工夫しているそう

リサーチの後は、実際に楽団の代表者や指揮者とディスカッションをして、テーマを決めていくと言います。

「例えば、この地域は山がとても美しいから山をテーマにしたい、学生たちのカラーを生かした曲にしたいといった要望を聞きながらディスカッションを進めていきます。対話を重ねて、自分自身が書きたいものと合致させながらテーマを決めていく感じですね」

さらに、吹奏楽曲においては作曲家としてだけでなく、指導者としての側面も求められると八木澤先生は続けます。

「プロの方だけではなく、中学生や高校生が演奏する場合もあるので、依頼団体の技量に合わせて調整しながら、自分の思い描いた曲のイメージを重ねていきます。生徒たちのためにわかりやすく表現する部分も必要だし、その曲を演奏することで生徒たちの成長にもつながるような教育的な観点も必要です」

ただ技量に合わせるだけでなく、演奏スキルをさらに高められるようにという教育面も踏まえて曲を作っていくんですね。そこまで細やかに考えられているとは、まさにオーダーメイドという言葉がぴったりです。

自分の中に残るアイデアを大切に

リサーチやディスカッションを経てテーマが決まった後は、実際にどのようなプロセスで曲を作っていくのでしょうか。

「曲を書く時は、専用ソフトを使用してパソコンに打ち込みながら、自分の頭の中だけで作り上げていきます。僕は自宅にピアノを置いていないので、ピアノで作曲することはないですね」

作曲家と言えば、ピアノの前に座っているイメージを持っていましたが、ご自宅にピアノがないとは……と驚いていると、「吹奏楽だと、50人くらいで演奏する曲になることもあります。そうなると、手が50本ないとピアノでは弾けないんです」と八木澤先生は笑います。

頭の中だけで作り上げるということは、何か思いついた時に書き留めたり、録音しておいたりしないのでしょうか。

「移動中や食事中、人と話している時などにメロディが浮かぶ瞬間はありますが、五線譜に書き留めることはないですね。翌日や翌々日まで自分で覚えているようなメロディでないと、人の心には入っていかないと思うんです。自分に残らないものが、人の心に残るはずないですから」

なるほど、自分の中にアイデアが残るかどうかを、一つの基準にしているんですね。自分に残らないものは、他の人の心にも残らないし響かない。音楽だけでなくあらゆるアイデアにおいても当てはまりそうです。

「ただ、メロディをメモすることはないですが、イメージを言葉で書き留めておくことはありますよ。曲のスケッチや設計図のような形でメモをして、後で膨らませることも削ることもできるようにしておくんです。たとえば『空のイメージ』と言っても、30人いたら30通りの空があるので、雲があるのか、太陽の光が差し込んでいるのか、鳥が飛んでいるのか、風が吹いているのか、具体的に思い描いて言葉で残しておきます」

そういった曲のイメージを、演奏する人たちに直接伝える機会も多いと言います。

「作曲者の指揮で演奏したい、作曲者に作品のイメージを話してほしい、という依頼をいただくことがよくあり、コロナ禍以前は一週間のうち6日間は各地を飛び回っているような生活でした。僕は現場に足を運ぶのがとても好きなんです。演奏者の人たちが目の前で心を打つような演奏をしてくれた時には、この曲を書いて良かった、作曲家を続けてきて良かったと心から思いますね。作曲に取り組んでいる時には、なかなかうまくいかず逃げ出したくなることもありますが、そういううれしい瞬間があるからこそ頑張れるんです」

リハーサルで手掛けた楽曲の指揮をする八木澤先生

批判的な意見も自身の成長につなげていく

中学校で吹奏楽部に入部したのが、音楽の魅力に触れたきっかけだったと語る八木澤先生。吹奏楽の作曲家になりたいと思うようになったのは、中学3年生の時でした。

「子どもの頃にピアノを習っていたわけではなく、作曲家を志してから音楽の勉強を始めました。作曲家には3歳くらいからピアノやバイオリンをやっていた人が多いのですが、僕はかなり遅いスタートだったんです。自分のように中学や高校で吹奏楽に出合って音楽を好きになる人を増やしたい、そういう人たちの役に立ちたいという思いで作曲家の道を歩んできました」

大学院卒業後、25歳の時に作曲家としてデビュー。CDや楽譜が世に出て、自分の曲が演奏される機会がだんだん増えてきた頃、八木澤先生は一つの壁にぶつかります。

「曲が世の中で知られるようになってくると、やっぱり賛否両論が出てくるんですね。インターネット上で批判的な書き込みをされて、悩んだこともありました。でも、マイナスの意見があるということは、視点を変えると、自分を応援してくれる人たちも同じ数だけいるんじゃないかと考えたんです。逆に一番良くないのは、誰にも何も言われないこと。曲が演奏されていない、誰の目にも留まっていないという状態ですから。そうやって気持ちを切り替えてから、作曲活動が軌道に乗ったように思います」

出る杭は打たれる。でも、出ていない杭は誰にも気づかれない。批判的な意見があるのは、ちゃんと注目されている証拠だというわけですね。先生のような表現活動だけでなく、私たちの普段の生活や仕事においてもいえることかもしれません。

「自分の感性に合う人だけでなく、批判的な意見を持つ人がどんなことを考えているのかを知れば、自分の成長にもつながるはずです。作曲家だけでなく、社会に出ていればみんな一緒なんじゃないかと思いますね」

コミュニケーションが豊かな発想を育む

八木澤先生は、作曲家としてデビューして今年22年目を迎えます。常に新しい作品を生み出し続けられる秘訣はあるのでしょうか。最後に、発想力の源についてお伺いしました。

「映画や絵画からインスピレーションを得ることもありますし、取材旅行に訪れた場所でアイデアが浮かぶこともあります。僕の妻は音楽を全くやっていないのですが、妻と一緒に演奏会や取材旅行に行くと、音楽家ではない視点での感想や意見が聞けるので新鮮ですね。音楽や吹奏楽の世界だけでなく、外からの意見を聞くことが良い刺激になっています」

さまざまな立場の人たちとのコミュニケーションの機会を増やすため、最近はYouTubeも活用しているそうです。

「コロナ禍のオンライン授業をきっかけに、自分で動画を作成できるようになったので、曲に関する質問に答える動画をYouTubeにアップし始めました。これがわりと好評だったので、最近はライブ配信でチャット画面に質問を書き込んでもらって、その場で答えるという試みをしています。中学生や高校生からもらった何気ない質問や感想が、新しいアイデアや発想の転換につながることもあって、とても良い場になっていますね」

YouTubeだけでなくTwitterFacebookも、情報発信やコミュニケーションの場として活用している八木澤先生。そんなオープンかつ柔軟な姿勢が、豊かな発想力を育み続けているのかもしれません。

時には批判的な意見や専門家以外の声にも耳を傾け、自身のアイデアや成長につなげていく八木澤先生のマインドセットは、どんな仕事に取り組む上でも大切なものだと感じました。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

やぎりんの吹奏楽入門
~作曲家が教える演奏力向上のヒント~

八木澤教司著
ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス 2018

「やぎりん」こと、今回お話を伺った八木澤先生の著書。吹奏楽の演奏者や指導者のための入門書として書かれた本ですが、「部活に青春をかけている生徒さんたちのエピソードも書いているので、少しでも吹奏楽に興味を持った方にぜひ読んでいただければ」と八木澤先生。海外の吹奏楽コンクールで審査員を務めた体験談や、海外から見た日本の吹奏楽など、国内外を飛び回ってきた八木澤先生ならではのコラムもあり、幅広く活躍する作曲者の活動をのぞき見ることができます。

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