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Research

思春期の子どもの心を育む"チャムシップ"とイマドキ親子の関係とは

「チャムシップ」という言葉を聞いたことがありますか?
これは心理学の言葉で、「思春期頃に現れる同性同年齢の親友関係」のこと。思春期や親友といった言葉から少し身近に感じるのではないでしょうか。

今回は、心理・行動科学科の教授で臨床心理士・公認心理師でもある須藤春佳先生に、この「チャムシップ(親友関係)」と子どもの成長の関係についてお聞きしました。また、チャムシップと親子関係の変化のお話からは、現代の子どもの成長過程における課題も浮き上がってきました。

PROFILE

須藤 春佳さん心理・行動科学科 教授

京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都文教大学臨床心理学部専任講師を経て、2010年神戸女学院大学人間科学部専任講師として着任し、2022年より現職。専門は臨床心理学。学部生の頃から一貫して「チャムシップ」をテーマに研究。学校教育現場などでの心理臨床家としての活動の中でさらなるヒントを得る。調査研究や事例研究のほか、最近では文学作品から子どもの心へのアプローチも行っている。

“チャムシップ”は思春期の自分作りに欠かせない存在

自身の生い立ちや経験から、直感的に「チャムシップ(chumship)」が、成長過程はもちろん、その後の人生においても非常に大事なものであると感じ、大学生の頃からずっと研究を続けている須藤先生。「前青年期の親友関係『チャムシップ』に関する心理臨床学的研究」(風間書房)という著書もある、チャムシップの専門家です。心理学用語である「チャムシップ」は、思春期頃に現れる同性同年齢の親友関係ということですが、もう少しかみくだくと、どんな意味でしょうか。

「チャム(chum)は親友、シップ(-ship)は関係という意味で、チャムシップは直訳すると親友関係です。詳しくは、前思春期(小学校3年生頃)から思春期頃に現れる、同性同年齢の、11の親友関係を指します。私の調査研究は、チャムシップが成長に与える影響が大きいと考えられる小学校3年生から中学3年生までを対象としています。チャムシップという言葉自体は、アメリカの精神科医ハリー・スタック・サリヴァンによるもので、この時期の親友関係は子どもの発達促進に非常に重要であると同時に、それまでの発達上の傷つきも修復するものとして心理治療的であると考え、提唱しました。

チャムシップの特徴は、11の水入らずの親しい友人関係で、“相手のことが自分と同等かそれ以上に思える”愛他的な友人関係のこと。異性愛につながる親密性の出現の始まりと言われています」

小学生から中学生にかけて“親友”ができた時の喜びは、多くの人が経験していることだと思います。「日々のことをはじめ、家族のことや好きなことについて、特定の友人と分かち合う体験がとても楽しいと感じる子どもでした」と、当時を振り返る須藤先生。ご自身も小学校3年生の頃から、特定の友人と一緒に出掛けてお気に入りのアイテムを持ったり、手紙をやりとりしたりすることが増え、その友人との特別な時間がとても楽しかったことを覚えているそう。5年生の頃に住んでいたオーストラリアの学校ではアフガニスタンの女の子と親しくなり、国を超えた友情関係も経験。また、中学2年で転校した際は、転校前の学校の親友とも文通をしながら関係を繋いでいたとも。このようなチャムシップ経験は、子どもにどのような影響を与えるのでしょうか。

「前思春期頃になると、成長とともに子どもの自意識が高まり、それまで疑問を持つことのなかった自分を取り巻く世界について、一歩引いた視点で見るようになります。同時に自分自身についても“自分は何者か”という問いを持ち始めると言われています。

そこで、同性同年齢の親友の存在は、『自分』について考え、形作っていくうえでのモデルとなり、また参照枠として大きな影響力を持つようになります。それまでは親が言うことを判断の基準にしていた子どもが、自我の芽生えと同時に、友人の考えを自分の中に取り入れ、友人が良いと思うものを自分も良いと思うようになります。つまり『チャムシップ』は、思春期の発達課題である親からの心理的な分離と、自分作りを進める上でとても大事な存在になるのです」

パーソナリティが形成途上にある時期の同性同年齢の親友は、成長のための大きな存在(イメージ)

親友は自分自身を映し出す鏡。先生によると、相手のことを自分と同等かそれ以上に大切に思える経験は、愛他性を育むと同時に、自分のことを大事にすることにもつながるのだそうです。

名作映画でひもとく男子と女子、それぞれのチャムシップ

筆者自身の経験からも、また、自分の子ども達(中学生男子、小学生女子)を見ていても「チャムシップ」の形には性差があるように感じます。実際のところはどうなのでしょう。

「これまでの研究の中で、性差は大きくあると思っています。もちろん個人差はありますが、調査研究のデータ分析から、男子は該当する時期に親密に友人と付き合うものの、その時期が過ぎるとさっと離れていく、いわゆる“太く短く”チャムシップを経験する傾向があります。

対して女子は、思春期だけでなく、その後の人生においても、親しい友人との付き合いを大事にする傾向があるように思います。自身を友人に“同一視する”傾向も女子の方が強いという指摘もあり、友人の考え方や価値観を取り入れながら自分自身を形成する傾向が強いのは、女性の方なのかなと感じています」

須藤先生は、授業の中で文学作品や映画を例に出して説明されることも多いそうですが、男子の「チャムシップ」をよく表している映画のひとつが米国の『スタンド・バイ・ミー』(1986年)なのだそう。

「大人になった主人公が『あの12歳の時のような友だちは、もうできない』と振り返っているシーンから始まります。4人で徒党を組んでいる少年たちの中で、家族のことや担任教師との間でつらい出来事を分かち合い、慰め合う2人の少年の姿が描かれています」

なるほど、この不朽の名作を見たことがある人なら、男子の「チャムシップ」は非常にイメージしやすいですね。

一方、女子の「チャムシップ」をよく表現した作品では、映画にもなった英国の児童文学『思い出のマーニー』を挙げているそうです。

「この作品は、生きづらさを抱える少女・アンナと、少女・マーニーとの交流を描いた作品です。アンナは育ての母から愛情をかけて育てられているものの、自分の生い立ちについてわだかまりがあり、生きる意欲がない状態でした。一方、マーニーの家は裕福ですが、両親はほとんど家に帰ってきません。そんな2人が避暑地で出会い、交流する中で、アンナの養母に対するわだかまりや実母に対する許せない気持ちが“自然と”消えていきます。マーニーの存在によって、自分を別の視点で見ることができ、アンナが癒やされていく体験が、非常にチャムシップ的だと思っています」

文学作品からチャムシップをはじめとする「子どもの心」にアプローチをすることも多いという須藤先生。同作はアンナにとってチャムシップ的存在であるマーニーを、“想像の仲間”として理解することができることが心理学的に興味深いと言います。

「想像の仲間とは、実際に目の前には実在しないけれども、子どもがリアリティをもって感じる存在のことで、幼児期、思春期、老年期などに現れると言われています。想像の仲間は“もう一人の自分”として友人のような存在として本人を支える役割も担っており、この映画の中ではマーニーはアンナにとって想像上の仲間であると同時に、二人の関係はチャムシップと言えると思います。アンナはマーニーとの出逢いによって、母親との間で抱えていた傷つきを癒やす経験をしており、とても意義深い存在です。」

ユング心理学会の機関誌「ユング心理学研究」第15巻(2023年3月発行予定)では、『思い出のマーニー』を取り上げた須藤先生の論文が発表になるそう

さらに作品におけるチャムシップと母娘の関係にも言及する須藤先生。

「男子と女子のチャムシップの大きな違いのひとつに、母親との関係があります。女子が自分として生きていく中で、同性の親である母親から受け継いだものを持ちつつ、母とは違う個人としていかに自立するかは大事なテーマです。女子にとってのチャムシップは、母と娘の関係を第三の立場で見て、調整する役割も果たしているのです」

女子のチャムシップには、母親が大きく関わっている……。母親から自立し一人の女性として成長するために、同性の親友が必要だということは、経験としておおいに理解できるところです。

“友だち親子”が同世代との友人形成に影響

長年「チャムシップ」を研究する中で、最近多くみられる友だちのような親子関係については、注意が必要だと感じている須藤先生。

「思春期以降の親子関係が、タテの関係ではなく、友だちのようなヨコの関係になりつつあるという現象が指摘されて久しいですが、このことは、友人関係の変化とも無関係ではありません。

親が子どもにとって権威的にふるまうことを嫌い、一見、理解ある友だちの延長線上のような存在に変わってきました。社会が容認していることもあり、親子の境界がなくなりつつある印象も持ちます。実際は、子どもが親の意図や期待をくみ取って行動していることも多いのですが、そんな親子関係にあっては、子どもは思春期の心理的な親離れができないまま、いつまでも“親の庇護の元にある子”そして“子離れできない親”の姿が見られます。そんな親子関係の形成によって、友人に本音を出せない、青年期になっても親を心理的なよりどころとする青年期以降の子どもが、一定数いるのではないかと思っています」

友だち親子は、理想の親子像としてマスコミなどでもてはやされる風潮がありますが、子どもの自立においては大きな弊害となるんですね。そもそも健全なチャムシップには、安定した親子関係がベースにあると須藤先生は言います。

「チャムシップとは、同性同年齢の11の親友関係であると説明しましたが、一人の親友に依存してしすぎている関係は、本来のチャムシップ関係ではありません。サリヴァンは、チャムシップは友人グループの中で同時に複数いてもよいと考えていて、それぞれと個々の親密な関係を築くことが、チャムシップであると言っています。

そして健全なチャムシップを築くには、“ひとりでいられる能力”(※)が必要です。それは子どもが23歳の頃、親にそばで見守られながら、ひとりで没頭して遊ぶ、という経験によって得られるものです。親が過干渉でも無関心でも、子どもはひとりでいられる能力を身につけることはできないのです」

※ひとりでいられる能力: D.W.ウィニコット(1953)が提唱した概念。ウィニコットによると、「誰かほかの人が一緒にいるときにもった“一人でいる”という体験を基盤にしていて、幼児または小さな子どものときに「母親と一緒にいて一人であったという体験」がこの能力を作るとされる。「友情が作られる原材」であるともされる。

先生の話に、思わずドキリ。「こっちを使ったら?」「こうした方がおもしろいよ」と、つい子どもの遊びに手や口を出しすぎてしまったり、逆に「携帯ばっかり見ないで、話を聞いて」と言われたり……。適切な距離感の親子関係は、子育てにおいては大きな課題のひとつといえそうです。また、思春期の子どもを持つ親にはこんなアドバイスも。

「親が思春期を思い出して、“自分は思春期の頃はこんな子どもだった”とお子さんに語り聞かせることは大いにしてください。ただし、自分が生きられなかった、理想とする人生を子どもに過剰に期待することはしないように、気を付けてください。思春期の発展途上にある自我を育てていこうとしているお子さんに対しては、あくまで『私はこうだったよ、あなたはどうしたい?』とお子さんの芽を育み尊重するスタンスを守ることが大切です」

チャムシップの存在は大人になってから心の支えになり、また何歳になっても呼び戻し、築くことができると、考えていると須藤先生。

「大人の方とカウンセリングをする際、思春期頃の友だちの話や部活動、趣味といった夢中になっていたことを取り上げて、当時の心を呼び戻すことがあります。大人になっても思春期の頃のいきいきとした気持ちや感覚が戻ってくることで、滞っていた心が再び生き返るようなこともあります。私自身の臨床実践において、その方が人生においてチャムシップを経験しているか、経験していないかは、とても重視している部分です。そして未だ経験していない方との間では、セラピー等を通してチャムシップの体験を経験してもらうことが治療的な進展になることも多いです」

思春期に築いたチャムシップは成長において大切なだけでなく、大人になっても、人生を輝かすことができる、まさに宝物のような存在なのですね。

(ライター:青柳直子)

もっと学びたいあなたへ

子どもの本を読む

河合隼雄著 河合俊雄編 著
岩波現代文庫 2013

『思い出のマーニー』のように、文学作品を通して子どもの心にアプローチすることもある須藤先生。そこで、心理療法家・臨床心理学者でありユング派分析家である故河合隼雄が大人にも読んでもらいたい児童文学をまとめた一冊を薦めてくれました。『思い出のマーニー』(ロビンソン作)を含め、ケストナーや今江祥智ら国内外の9人の児童文学者・絵本作家を取り上げた同書から、子どもの心を知るヒントはもちろん、私たち大人の心に残る“子どもの心”に出会えるかもしれません。

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