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今度こそ、楽しみながら続けよう! 英語を学び直したい大人のためのヒント

昨年度に放送されたNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』でモチーフとして取り上げられたことをきっかけに、ラジオ英語講座が注目を集めました。影響を受けてラジオを聴いてみた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

でも、4月から聞き始めたものの、1ヶ月も続かなかった……なんていう方もいるのでは?ラジオ講座に限らず、英語を勉強しようと思って何度もチャレンジしているのに、いつも長続きしないという悩みを持つ人は少なくないはずです。

そこで今回は、英語教育に長年携わってきた共通英語教育研究センター専任講師の田岡千明先生に、大人が英語を学び直す際のヒントについて伺いました。

PROFILE

田岡 千明さん共通英語教育研究センター 専任講師

神戸女学院大学文学部英文学科卒、英国マンチェスター大学博士号取得(言語学)。共通英語教育を推進する専門機関「共通英語教育研究センター」に2014年4月より現職。TOEFL®テスト日本事務局の公認トレーナーとしても活躍。「ETS Authorized Propell® Facilitator」「ETS TOEFL ITP® Teacher Development Workshop Facilitator」認定。両方に認定されているのは現在、日本で3名。

日本語と英語のスキーマの違いとは?

神戸女学院大学を卒業し、同学大学院修士課程を修了後、イギリスのマンチェスター大学へ。認知言語学を学び、帰国後は学生や社会人の英語教育に携わってきた田岡先生。専門である認知言語学は、英語教育の現場でも生かされていると語ります。認知言語学とはどんな学問なのでしょうか。

「認知言語学は、言語を人間の認知能力から捉える学問です。私は留学中、主に動詞を対象として、日本語と英語の比較研究を行っていました。言語学におけるスキーマ(※)という概念は、英語教育の現場でも役立っています。日本語と英語のスキーマの違いを知ることは、英語学習の助けになると思います」

※スキーマ:知識のシステムや構造を表す概念

さらに田岡先生は、可算名詞と不可算名詞を例に挙げて、スキーマについて説明してくれました。

「日本語と英語のスキーマの違いの一つに、可算名詞・不可算名詞があります。英語では、可算名詞と不可算名詞を使い分けますが、日本語にはそういった習慣がありません。そこで私は、可算・不可算名詞をただ丸覚えしましょうと教えるのではなく、英語と日本語でのものの捉え方の違いを説明するようにしています。たとえば家具(furniture)は不可算名詞ですが、なぜ家具は数えられないのか、英語圏では家具をどのように捉えているのかという背景まで説明すると、少しは記憶に残りやすいですよね」

家具には、椅子、机、ソファ、ベッドなど、さまざまなアイテムがあるものの、英語でfurnitureという場合、個別のモノではなく "まとまり"として捉えられているため、不可算なのだそう。田岡先生のように言語学的な背景も説明してくれる先生がいたら、学生時代の英語の勉強ももう少し楽しかったかもしれないなと、学生たちが羨ましくなってしまいます。

主語と動詞のミスマッチが起こってしまう理由

筆者自身、学生時代からずっと、英語に対する苦手意識があるのですが、長年英語教育に携わってきた田岡先生の目から見ても、英語が苦手だという日本人は多いのでしょうか。だとしたら、原因はどこにあるのでしょうか。

「やっぱり英語に苦手意識を抱いている方は多いと思いますね。たぶん、学生時代のどこかのタイミングでつまずいて、どこでつまずいたのか自分でもわからないまま、どんどん授業が先へと進んでいってしまったのではないでしょうか。苦手になってしまう過程は、他の科目でも同じだと思いますよ。私も高校の数学がそんな状態でした(笑)」

どこでわからなくなったのか、それさえもわからないまま、気づけばお手上げの状態に……。学生時代の記憶がよみがえってきます。

「テストをなんとか乗り切るために、最後は一夜漬けをする。それでますます嫌いになるんですよね」と笑う田岡先生。身に覚えがあり過ぎて、激しくうなずいてしまいます。英語の場合は、どこがつまずきやすいポイントなのでしょうか。

「認知言語学の視点から見ると、やはりスキーマの違いでしょうか。先ほどお話した可算名詞・不可算名詞もそうですが、そもそも日本語にはない区別なので意識していないですよね。知識としては覚えても、その背景にあるスキーマの違いまで理解して腑に落ちていないから、すぐ忘れてしまうし、何度も同じ間違いをしてしまうのかなと思います」

他にも、日本語と英語のスキーマの違いとして大きいのが、主語の扱い方だと田岡先生は続けます。

「英語は何が主語なのかはっきりしていますが、日本語だと主語が省略されることが多いですよね。だから、英訳する時に何を主語にしたら良いかわからなくなったり、主語と動詞が合わなくなったりするんです」

田岡先生が例として挙げたのは、「神戸女学院大学では心理学を勉強できます」という文章。

「よくあるのは、単語をそのまま英語に置き換えて『Kobe college can study psychology』としてしまうケース。これだと、心理学を学ぶのは神戸女学院大学になってしまいます。主語と動詞がミスマッチですよね。『study』を使うなら『You can study~』とすれば良いですし、『Kobe college』を主語にするなら『Kobe college offers~』と『提供する』という動詞を使えば成り立ちます。単語やフレーズのレベルで訳そうとすると、主語と動詞のミスマッチが起きやすいんです」

言語学の分野では「うなぎ構文」と呼ばれている、日本語独特の構文があると、田岡先生は説明します。

「食事に行った時に、『あなたは何を食べる?』と聞かれて『僕はウナギだ』と答えることがありますよね。うなぎ構文という名称はここから来ています。日本語独特の構文なので、たとえば『私はA定食』をそのまま単語レベルで英語に置き換えると、『I am A lunch』になってしまう。いやいや、あなたはAランチじゃないよね?と(笑)」

聞いていると思わず吹き出してしまうような話ですが、よくよく振り返ると、今まで筆者自身も「I am A lunch」的な間違いをたくさんしてきたような気がします。日本語と英語のスキーマの違いを意識せず、そのまま英語に置き換えようとすることで、主語と動詞がミスマッチな文章を作ってしまうんですね。

語彙力はお金と一緒!焦らずコツコツと

ここまで田岡先生にお話していただいたスキーマの話など、言語文化の背景の違いを知ることは、英語学習の助けになるだけでなく、学ぶ楽しさそのものも広げてくれそうです。学生時代は受験やテストに向けて、時間に追われて勉強していましたが、大人になった今だからこそ、ふと疑問に思ったことをじっくりと調べてみるなど、学生時代にはできなかったアプローチで学ぶことができるのかもしれません。

とはいえ、背景をとことん突き詰めていくと研究レベルになってしまうので、逆にわかりづらくなるかもしれないと話す田岡先生。「兼ね合いが難しいところですね。結局は覚えるしかない部分もありますから」とほほえみます。スキーマを理解するためには、まずは語彙力などのインプットをしっかり行い、自分の中にデータを蓄積することが必要とも。

「もちろんその人のレベルにもよりますが、やはり多くの人が圧倒的に足りていないのが語彙力。ある程度の語彙力を身につけて、自分の中のデータ集めをしないと、たとえば可算・不可算名詞やatheの使い分けといったスキーマを、理解して自分のものにするのは難しいと思います。理論とデータ集め、どちらも大切ですね」

語彙力の大切さを、田岡先生は「語彙力はお金」というユニークな表現で説明します。

「いつも学生たちにも『語彙力はお金』と言っているんです。お金ですべては解決できない。でもあると便利じゃないですか。語彙力も一緒で、語彙力さえあれば読み書きや会話ができるというわけではないけど、語彙力があるとすごく便利です。あとは『一獲千金を狙わずにコツコツ貯めましょう』とも伝えています。1100個覚えるよりも、15語でも10語でも良いから続けることが大切です」

英語教育に長く携わってきた田岡先生。TOEFL®対策のテキストなど著書も多数

確かに、一気にたくさん覚えても一気に忘れてしまいます。貯金箱に貯めていくように、少しずつ地道にやっていくのが大事なんですね。語彙力を増やす時に、何かコツはあるのでしょうか?

「対訳を覚えるだけじゃなくて、フレーズやコロケーション(組み合わせ)で覚えるとか、動詞だったら後ろに来る目的語も一緒に覚えるとか。類義語の使い分けやニュアンスの違いをまとめて覚えるのも良いですね。あとは、この文章のこんなシーンで出てきたとか、何か記憶に引っかけるフックを作っておくと思い出しやすいと思います」

さらに、田岡先生のおすすめの勉強法についても教えてくれました。

「題材はどんなものでも、自分のレベルや興味に合わせて選んだら良いので、英語の音声と文章と対訳があるものを用意して、まずは音読練習をする。意味を理解した上で、リピーティング(音声を一時停止してリピート音読する)やシャドーイング(音声を止めずに少し遅れて音読する)といった練習を繰り返して、最終的には日本語を見て英語に訳せるようにする。この方法が一番効くと思います。多読や多聴といった方法もありますが、短い文章でも良いのでこの方法を続けていくほうが、力が付くのではないでしょうか」

モチベーションを維持する仕組みづくりを

具体的な勉強方法も教わり、だんだんとモチベーションが上がってきました。ただ、これまで何度も挫折している筆者としては、この気持ちを維持するのが一番の課題かもしれません。モチベーションの維持にも、何かコツはあるのでしょうか?

「まず大切なのは、具体的な目標を立てること。『英語ができるようになりたい』って、すごく曖昧なんですよね。日常会話ができるようになりたいのか、もっと突っ込んだ議論がしたいのか。ニュースを理解できるようになりたいのか、映画を観たいのか、小説を読みたいのか。何をしたいかによって、勉強の方法も変わってきますよね。何のために英語を勉強するのか、目標は具体的にしたほうが良いと思います」

なるほど、なんとなく「英語ができるようになりたい」と思うだけで、何がしたいのが自分でもはっきりわかっていなかったせいで、これまでは勉強が続かなかったのかもしれません。

「あとは、学生にもアンケートを取ってみたのですが、モチベーションが上がる要素として大きいのは、やっぱり達成感ですね。前よりも聞き取れるようになったとか、読めるようになったとか、誰かと会話ができたとか。小さなことでも良いので、少し成長した自分を感じられると、また頑張ろうと思うんですよね」

さらに、「これは自分にも言い聞かせることがあるんですけど」と前置きしながら、こんなアドバイスもしてくださいました。

「初めに頑張り過ぎないこと。英語に限らず、何かを始めようと思った時に、1日何時間やるとか、初めにすごく頑張ってしまって、すぐに挫折することってありますよね。大切なのは続けることなので、15分でも良いし、もし1日できなかった日があったとしても、また次の日から再開すれば良いんです」

そして、続けるための仕組みづくりが重要だと、田岡先生は続けます。

「意思の力で何とかしようとするよりも、まずは環境を整備すること。英語を毎日勉強するなら、単語帳を持ち歩くとかアプリをインストールするとか、ぱっと20秒以内で始められるような、アクセスしやすい環境を作ると良いですね。オンラインのレッスンを予約するなど、スケジュールに組み込んでしまうのも良いかもしれません。自分がどうやったら続けられるのかを考えて、習慣化するための仕組みづくりを最初にするべきですね」

仕組みづくりの一つとして、記録をつけるという方法も。「単語を5つ覚えた」など、今日勉強した内容を手帳などに毎日書き留めることを、学生にも勧めているそうです。

「記録をつけると、小さな達成感も得られます。何も書くことがなかったら『今日は明日のためにお休み』と書いても良いんです。バカバカしいと思うかもしれないけど、何かを習慣化するためには、この方法は実はけっこう効くんですよ(笑)」

具体的な目標を立てる。達成感を得られる機会を作る。初めから頑張り過ぎない。習慣化するための仕組みをつくる。田岡先生からたくさんのヒントをいただいて、今度こそ楽しく続けられるかも!という気持ちになりました。最後に田岡先生は、「15分でも続けていけば、塵も積もれば山となる。そのうちやる気になって、今日は30分やろう、1時間やろうと思う日もきっと出てきますよ」とやさしく背中を押してくれました。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

英語独習法

今井むつみ著
岩波書店 2020

「“楽して”ではなく合理的に“楽しみながら”英語の達人になろう」という帯文に惹かれて、田岡先生が書店で手に取ったという一冊。著者が認知科学を専門としているため、「認知のしくみから学習法を見直そう」をテーマとする第一章など、田岡先生が研究してきた認知言語学ともリンクする部分が多いそうです。「日本語と英語のスキーマのズレ」や「可算・不可算名詞」など、田岡先生のお話の中に登場したトピックもたくさん取り上げられているので、興味を持った章から読んでみてはいかがでしょうか。

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