わからないから、おもしろい。Be inspired to know the unknown.わからないから、おもしろい。Be inspired to know the unknown.

神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ神戸女学院大学イメージ
Campus

より豊かに生きるための知を学ぶ「リベラルアーツ・カフェ」の魅力を体感

近年、多くの大学が重きを置いているリベラルアーツ教育。大学教育だけでなくビジネスの世界においても、リベラルアーツは注目されてきています。

神戸女学院大学では2022年度に、このリベラルアーツをテーマに一般の方や学生を対象とした公開講座「リベラルアーツ・カフェ」を開催。5月に行われた第1回「『生きがい』って何?」の受講レポートをお届けします。

生きがいとは何か、参加者と共に考える

「リベラルアーツ・カフェ」は、多様な専門分野を持つ教員による講演や体験学習といった親しみやすい企画と、参加者との交流の時間で構成されています。2022 514日に行われた第1回は、「『生きがい』って何?」と題して、前半は文学部総合文化学科の教授・川瀬雅也先生の講義、後半は参加者との語り合いの時間という二部構成で行われました。

「リベラルアーツ・カフェ」はエミリー・ブラウン館で開催

参加者はおよそ30人。テーブルを囲み、紅茶を手に開催を待つ様子は“大学で学ぶ”という堅い雰囲気はなくサロンのよう。今回、川瀬先生がテーマとして取り上げたのは、神戸女学院大学の教授でもあった精神科医・神谷美恵子の著書『生きがいについて』。本の内容を紹介しながら、「生きがいとは何か」について参加者と一緒に考えるという内容です。

初めに川瀬先生は「生きがいの感情論」と題し、本の第2章の内容を解説しました。神谷は、生きがいは「内面的、精神的な問題」「感情の問題」であり、生きがいの感情とは「よろこび」と「生存充実感」であると述べています。神谷の言う「よろこび」とは、未来に希望と信頼を持てること。「生存充実感」とは、生の内容が充実し、豊かで満たされているという実感です。そして、「生存充実感」を得るためには、抵抗や手ごたえが不可欠だと神谷は言います。

「神谷は『ほんとうに生きている、という感じをもつためには、生の流れはあまりになめらかであるよりはそこに多少の抵抗感が必要』『努力を要する時間、生きるのが苦しい時間のほうがかえって生存充実感を強めることが少なくない』と述べています。例えば登山をする時に、自分の足で登るのとヘリコプターで頂上へ行くのでは、やりがいが違いますよね」

第1回の講座を担当した川瀬先生

「哲学」と聞くと、ちょっと難しそうだと尻込みしてしまいますが、話のところどころで川瀬先生が具体的なたとえ話を挟んでくれるので、哲学初心者の筆者でもすんなりと頭に入ってきます。「なるほど、仕事の後のビールがおいしいのと同じだな」などとこっそり思い浮かべながら話を聞いていました。

人間のさまざまな欲求が、生きがいに関係する

続いて川瀬先生は、「生きがいの欲求論」と題し、本の第3章の内容を解説しました。この章では、神谷は「人間の持つ根本的な諸欲求の充足が生きがいの獲得につながることがある」とし、以下の欲求について述べています。

0 価値と意味への欲求

1 生存充実感への欲求

2 変化への欲求

3 自由への欲求

4 自己実現への欲求

5 未来性への欲求

6 反響への欲求

川瀬先生は、〈 0 価値と意味への欲求 〉は生きがいの大前提であると説明。さらに、〈 5 未来性への欲求 〉は、〈 1 〉~〈 4 〉の欲求の根底にある欲求であり、未来性は神谷の生きがい論における重要なキーワードだと解説しました。

6 反響への欲求 〉、すなわち他者からの反響や承認に対する欲求について、小さい子どもが「今からすべり台を滑るから見ててね!」と言って褒めてもらおうとするのが、この欲求の表れだと川瀬先生は語ります。さらに、大人の場合でも、SNSの「いいね!」ボタンは、まさに反響への欲求が可視化されたものだという説明を聞いて、なるほどと納得しました。

異なる背景を抱える人たちが語り合う

最後に川瀬先生は、「神谷『生きがい論』の核心」と題し、本の第7章から10章の内容を解説しました。神谷の「生きがい論」の核心は、生きがいを持って生きるための処世術の伝授ではなく、〈 0 価値と意味への欲求を満たせない人 〉、つまり“自分の生に価値があり、意味があると思えない人”が、その状況から新しい生きがいの発見に至るまでのプロセスの考察であると、川瀬先生は強調します。さらに、この「生きがい論」の核心は、生きがいを喪失しているわけではないが一層充実した生活を望んでいる人にも、生きるヒントを与えてくれるはずだと語ります。

最後のテーマである「神谷『生きがい論』の核心」の解説は、筆者にとっては少し難しく感じる部分もありましたが、「生きがい喪失者は、自分の生を『大いなる存在』から授かった貴重なものとして理解することで、自分の生の『価値と意味』を再発見できる」「生きていること自体が最大の価値であり、最大の意味」という言葉はとても印象的でした。

講義後は、約30人の参加者が自由に語り合う時間。「今日の講義内容に対する率直な感想や質問、生きがいについて普段自分が考えていることなど何でもよいので、皆さんで意見を交差させながら今日の内容をより深めていきたいと思います」と川瀬先生が呼びかけると、参加者の方たちが手を挙げ、次々と語り始めました。

子どもの頃に不登校になった経験を持つ人や、うつ症状に苦しむ母親に長年寄り添った人、生きがいを見つけられずにいる家族を心配する人など、さまざまな事情を持つ参加者たちが発言。みなさんのお話に対して川瀬先生がコメントするだけでなく、別の参加者が意見やアドバイスを伝える場面も多く、さながら人生相談のような一幕もありました。

温かい雰囲気の中で、参加者の皆さんがリラックスして語り合う様子は、まさに双方向の学びの場だと感じられ、一方通行の講義とはひと味違った新鮮な体験でした。

対話を通して学び合う、開かれた場を

今回の講師を務めた川瀬先生は、「リベラルアーツ・カフェ」の発案者。講座を終えた川瀬先生にお話を伺いました。

本当は人見知りという川瀬先生。「少しでも和やかな空気を作ろうと、冗談を交えるなど工夫しています」

参加者の皆さんが積極的に発言し、活発に意見交換がされる様子を見た率直な驚きを伝えると、「私もびっくりしました。もし誰も発言してくれなかったら、会場にいる教職員に話を振ろうかなと思っていましたが、全くそんな必要はなかったですね」と川瀬先生は笑います。

近年、全国の大学で「サイエンスカフェ」「哲学カフェ」といった対話型の講座が数多く開催されているそう。2005年から哲学カフェを継続的に主催してきた川瀬先生は、今回の「リベラルアーツ・カフェ」にも対話型のスタイルを取り入れています。

「学びを自分のものにするためには、ただ話を聞くだけではなく、自分の言葉で考え、みんなで話し合って、学んだことを『血肉』にしていくプロセスが必要です。そのためにも、単なる一方通行の講演会ではなく、講師も参加者も同じ目線に立って双方向でやりとりできるような、肩肘張らずに、気楽に来ていただけるような場にしたいと思っています」

川瀬先生が哲学カフェで積み重ねてきた経験を生かして企画したリベラルアーツ・カフェ。「これまでの哲学カフェでの試行錯誤を経て、実はいろいろと工夫しているんです。リラックスして参加していただけるように冗談を交えたり、始まる前もシーンとしていると緊張感があるので、音楽を流してみたり。やっぱり雰囲気作りは大事ですから」

確かに、会場では講座が始まる前にジャズが流れていて、神戸女学院大学オリジナル和紅茶を提供しているスペースや、講座に関連する本を自由に閲覧できるスペースがありました。多くの工夫が散りばめられていたからこそ、サロンのような和やかな雰囲気の中、参加者の皆さんがリラックスして発言できたのかもしれませんね。

紅茶は人間科学部 環境・バイオサイエンス学科の高岡素子先生とゼミ生の研究から生まれたもの

今年度からスタートした「リベラルアーツ・カフェ」ですが、そのきっかけは何だったのでしょうか。

「大学という場所には各分野の専門家が揃っています。その大学の知をキャンパスの中だけに閉じてしまうのではなく、社会に開いていくことが大切だと考えています。大学は、学校教育の場であると同時に、地域の知的・文化的な活性化に貢献する社会教育施設でもなければいけないと思うんです。ですから、社会に開かれた活動をより活発にしていくために、『リベラルアーツ・カフェ』を企画しました」

川瀬先生は、神戸女学院大学と地域の人たちとの関係性について、こう語ります。

「本学は山の上にあるので、地域の人たちとの関係が少し薄くなりやすいという面があります。本学にはヴォーリズ建築の美しいキャンパスという素晴らしい教学の環境があるわけですから、この講座をきっかけに、ぜひ近隣住民の皆さまにも足を運んでいただいて、こうした環境の中での学びを体感してもらえたらと考えました」

大人がリベラルアーツを学ぶ意義とは

今回の公開講座「リベラルアーツ・カフェ」は、神戸女学院大学の教育の柱であるリベラルアーツという言葉を冠していますが、川瀬先生ご自身はリベラルアーツをどのように捉えているのでしょうか。

「多様な捉え方があると思いますが、リベラルアーツに対する私の理解をひと言で表すと教養的知識。いろいろなことに応用が利いて、ものごとの土台となるような基礎的学力と言ってもいいかもしれません。複眼的なものの見方、つまり臨機応変に視点を変えながら一つの問題を立体的に見る力を身に付けていくことが、リベラルアーツ教育の意味だと考えています。リベラルアーツはこれから社会に出ていく学生だけでなく、すでに社会に出ている大人にとっても大切ですし、むしろ大人にこそ必要な力ではないでしょうか」

講座での参加者の方たちのやりとりを例に挙げ、川瀬先生はこう続けます。

「今日は若い世代の方から高齢の方まで、年齢も職業もさまざまな人たちが発言していましたよね。やっぱり人間は、自分の目線でしかものを見られないし、自分が立っている場所からの風景にしか気づかない。だから今日のように、それぞれ全く違った背景を抱える人たちの考え方にふれ、視野を広げることが大切です。静岡側から見た富士山しか知らなかった人が、山梨側にも富士山があったんだと知るような、そういう体験が必要なんです」

リベラルアーツ・カフェでは、今回の哲学のほかにも、心理学、体育学、音楽、食品科学、異文化理解など、多種多様なテーマを取り上げます。川瀬先生は「リベラルアーツ・カフェには生き方を豊かにしてくれる要素がたくさん含まれています」と笑顔で語ります。

7月には体育研究室 専任講師の安田友紀先生による第2回講座「カラダから。」が開催されました

「リベラルアーツを通して、生きることの豊かさを味わうことができるのではないかと思います。そしてその豊かさは、今回の講座でお話したような『生存充実感』や『よろこび』にもつながっていくはずです」

最後に川瀬先生は、リベラルアーツ・カフェのような双方向の学びの場を今後はもっと増やして、参加者同士の交流や大学と地域の交流を、さらに深めていきたいと話してくれました。関心のある方は、ぜひ一度足を運んで、対話を通して学び合うことで視野が広がっていく豊かな時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

(ライター:藤原 朋)

この記事に興味を持ってくれた方へ

公開講座「リベラルアーツ・カフェ」

神戸女学院大学と地域の交流の場として、2022年度は6回の開催を予定。教員が専門分野について解説するだけでなく、参加者同士のコミュニケーションを通じて、学びを深めます。申し込みは各回受け付けで、性別、年齢を問わず申し込みが可能です。

他の記事を読む

page toppage top