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図書館は大学の顔。貴重書からひもとくリベラルアーツ教育と女子教育の歩み

「本棚を見れば、その人がわかる」という言葉を耳にすることがあります。その人がどんな本を読んできたのか。そこから、興味・関心のある分野はもちろん、考え方や人生観まで見えてくるのかもしれません。

では、個人の本棚ではなく大学の本棚、つまり大学図書館のコレクションからは、どんなことがわかるのでしょうか。今回は、学校法人神戸女学院が所蔵する貴重なコレクションの数々を、図書館長・史料室長を務める文学部総合文化学科教授の藏中さやか先生と図書館・史料室職員の皆さんにご紹介いただいたところ、日本におけるキリスト教の歴史、女子教育の歩みなどが見えてきました。

蔵書が体現する、大学のアイデンティティ

広く一般の人たちが利用する自治体の図書館とは違って、大学図書館は学生や教職員の教育・研究をサポートするためのものです。利用者が違えば、蔵書ももちろん違ってくるでしょう。大学図書館にとっての蔵書とは、どのような意味や価値を持つ存在なのでしょうか。

「大学図書館の蔵書は、大学の顔であり看板です。どういった蔵書を持っているかが、大学のあり方や理念と強く結びついています。その大学がどこに力を入れているのか、これからどんな方面に発展していきたいと考えているのか。そういったことが、今ある蔵書に限らず、今後新しく収集する本にも、自ずと表れてくると思います」

そう語る藏中先生は、神戸女学院の図書館の蔵書について、次のように説明します。

「神戸女学院大学はリベラルアーツを教育の柱として掲げていますので、やはり幅広い選書を心がけていますね。また、同じく神戸女学院大学の教育の柱の一つであるキリスト教主義に関わるものとして、キリスト教や讃美歌に関するコレクションを多く所蔵していることも特徴です」

「図書館は大学だけでなく、神戸女学院全体の施設なんです」と藏中先生

そのうえで、英文学関係の資料が充実していることも特徴だと、史料室職員の石村真紀さんが続けます。

「英語教育は、創立当時からの一つの柱になっていますので、英文学関係の蔵書は古くから継続して充実しています。本学の英文学科の学生は、昔も今も、英語で卒業論文を書きますし、オリジナルにあたることは非常に重要ですから。英文学以外でも、学内の先生方の専門分野に応じて資料が充実していくという傾向があります」

お二人のお話から、神戸女学院の教育理念や研究分野とリンクする形で、蔵書が形作られてきたことがよくわかります。創立以来150年近い年月をかけて、蔵書が蓄積されているところは神戸女学院ならではといえそうです。

日本のキリスト教の原点に関わる、重要なコレクション

今回は特別に、所蔵している書物から貴重書の一部を見せていただけることに。貴重書は一般の資料と分けて管理されている蔵書で、「高価な本や希少な本が、必ずしも貴重書になっているわけではなく、本学の場合は、創立以来の本学の歴史に関わるもの、キリスト教や讃美歌に関わるものを中心に、貴重書として取り扱っています」と図書館課長の竹中園子さん。貴重書は図書館の貴重書庫で保存し、次の世代に伝えていくために万全の注意を払って慎重に扱っていることも教えてくれました。

まずご紹介いただいたのは、明治期のキリスト教に関する資料です。神戸女学院は、明治初期にアメリカンボード(米国伝道会)の宣教師によって設立されたため、当時のキリスト教に関連する資料を数多く所蔵しています。

その一つが、オルチン文庫と呼ばれるコレクション。宣教師であるジョージ・オルチンが収集した、明治初期の讃美歌および原稿・写本・刊本など日本讃美歌史資料115点が神戸女学院に寄贈されています。

オルチン文庫のうち12点は、神戸女学院の100周年事業の一環として、1978年に複製本が出版されています

史料室職員の佐伯裕加恵さんは、オルチン文庫について次のように説明します。

「キリスト教にはいろいろな教派があって、讃美歌も教派によってそれぞれ違います。オルチンが属したアメリカンボードは会衆派と呼ばれる教派ですが、彼らは教派にとらわれずキリスト教を日本で広めていきたいという意識が強かったようです。そこでオルチンは、さまざまな教派の人が歌える共通の讃美歌を作るために、多くの讃美歌の資料を収集したんです」

ただ単に、さまざまな教派の讃美歌をまとめただけでなく、日本の人たちが歌いやすいように音律を変えたり、変体仮名を誰もが読めるような文字に変換したりと、多くの工夫を凝らして、日本の讃美歌を作っていったそうです。

「この活動は日本の音楽や日本語の発展に資するものだと捉えて、本学ではオルチン文庫を貴重書としています」と佐伯さん。文化的に非常に価値の高い資料であることが伝わってきます。

続いてご紹介いただいたのは、松山高吉文庫と呼ばれるコレクション。国学者・牧師であり、神戸女学院の教員でもあった松山高吉の蔵書約500冊を所蔵しています。幕末から明治初期の神道・国学・儒学およびキリスト教関係の和書や漢籍の他、聖書翻訳や讃美歌原稿に関する文書が含まれています。松山高吉の娘である松山初子が神戸女学院の寮の舎監を務めていたことから、図書館に寄贈されたそうです。

石村さんは、松山高吉についてこう説明します。

「先ほどご紹介したオルチンは、共通の讃美歌を作った人物でしたが、実は共通の聖書を作ろうというプロジェクトもありまして、そこに深く関わったのが松山高吉なんです。ですから松山高吉文庫には、このプロジェクトのために集められた資料も多く含まれています」

共通の讃美歌を作ったオルチン、共通の聖書を作った松山、この2人の蔵書が神戸女学院に所蔵されているんですね。日本のキリスト教の原点に関わる、非常に貴重な資料だといえそうです。

神戸女学院の図書館には、他にもギューリック・ライブラリーやミッション・ライブラリーと呼ばれるアメリカンボード関連のコレクションがあり、明治期のキリスト教に関する資料がここまで揃っている場所は、他にはなかなかないのだとか。

資料からひもとく、リベラルアーツ教育の原点

ここからは、神戸女学院の関連資料についてもご紹介いただきました。まず佐伯さんが説明してくれたのは、デフォレスト文書について。

「神戸女学院第5代院長のCB・デフォレスト先生が残した、学校運営に関する資料や書簡を、デフォレスト文書として保存しています。デフォレスト先生がアメリカンボードの本部に送った報告書簡は、アメリカのハーバード大学の図書館に寄贈されています」

これらの文書には、日本の女性たちにどういう教育を行いたいのか、女性宣教師の目線で語られているそうです。

「本学は、専門教育ではなくリベラルアーツ教育を行うということを、創立当初から打ち出していますので、そういった思いが書簡にも綴られています。日本に派遣された女性宣教師の方々は、アメリカの女子教育の先駆的な学校でリベラルアーツ教育を受けた方が多いので、日本でもアメリカ式のリベラルアーツ教育を行いたいと考えていたようです」

リベラルアーツ教育をうたう大学は近年増えていますが、アメリカ式のリベラルアーツ教育とはどんな教育なのでしょうか。

「アメリカ式のリベラルアーツ教育は、キリスト教をベースにした豊かな人間性を養う教育です。つまり、ただ広く浅く教養を身に付けるのではなく、人格を磨くための教育なんです。ですから、学んだことが単に世の中に出た時に役立つということだけではなく、ここでの学びを自在に応用し、進む道を自分で決めることができる。そんな自立・自律した人間を作る教育だと思います」

神戸女学院の建学の精神は、アメリカから日本に渡ってきた女性宣教師の方たちから脈々と受け継がれていることが、残された資料から伺えます。

入学案内や大学新聞も、時代を映す貴重な資料

他にも、学校便覧・入学案内・カリキュラムといった資料や、古い教材・教具、学生たちが作った大学新聞など、大学にまつわる資料からさまざまなことが読み取れます。例えば、「学校便覧や入学案内からは、時代と共に変遷していく様を読み取ることができる」と佐伯さんは語ります。

「戦前・戦中の日本では、キリスト教に対する締め付けが強かったので、教育方針としてキリスト教を基にしているとは、なかなか書きづらくなっていくんですね。その部分をうまく書き替えるなど、学校運営における苦労が見て取れます」

普段何気なく目にしている入学案内などのパンフレットも、数十年にわたって蓄積されていくと、時代を映す資料としての価値が生まれてくるんですね。

同窓会組織「公益社団法人神戸女学院めぐみ会」の発行物など、関係資料が大切に保存されています

続いて石村さんは、古い教材や大学新聞について紹介してくれました。

「掛図と呼ばれる、黒板や壁に掲げて使用する教材が残っているのも、本学の特徴です。特に、音楽教育に関する掛図をたくさん所蔵しており、他の音楽系大学と比べてもこれほど多く残っているのは珍しいようです」

神戸女学院の図書館に19点残っているトニック・ソルファ掛図。トニック・ソルファとは、19世紀半ばにイギリスで発明された簡易譜による視唱の指導法のこと

「大学新聞は、創刊された昭和30年代から、ほとんどすべての号が残っています。新聞部の学生たちが作ったものですので、公的な資料からはわからないような、当時のリアルな学生生活が見て取れるのが面白いですね」

昭和30年代の大学新聞には、先輩から後輩への就活のアドバイスも。学生たちの悩みや関心事は、いつの時代も変わらないのかもしれません

長い年月を経て、大切に保存されている神戸女学院図書館の蔵書・コレクションの数々。これらの資料は、大学のアイデンティティと強く結びつき、藏中先生が冒頭でおっしゃったように、まさに蔵書=大学の顔であることを実感しました。

さらには、大学の歴史だけでなく、日本におけるキリスト教の歴史や、日本語や音楽の発展、女子教育の歩みなど、さまざまなことが読み解ける貴重な資料であることがわかり、大学図書館から知の世界が広がっていく楽しさにふれたひとときでした。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

山本通時代の神戸女学院
―黎明期の女子教育とその歩み―

津上智実編
日本キリスト教団出版局 2015

神戸女学院大学の「初期神戸女学院」という授業のテキストとして、教職員の方々が各章を執筆して制作した本。図書館の蔵書から引用した、歴史を物語る貴重な写真や資料が多く掲載されています。キリスト教主義教育や初期の英語教育などについて詳しく語られているので、神戸女学院の成り立ちを知るだけでなく、日本の女性教育の黎明期からの歩みもたどることができる一冊です。
※神戸キリスト教書店(TEL 078-331-7569)で購入できます。

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