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Culture

たった一人で奏でる壮大な音楽! パイプオルガンの魅力に迫る

教会や音楽ホールに鎮座するパイプオルガン。クリスマスシーズンになると、讃美歌や聖歌を奏でる音色を耳にする機会もあるかもしれません。でも、パイプオルガンを見たり聴いたりしたことはあっても、どんな楽器なのか実はよく知らない人が多いのではないでしょうか。

楽器の構造や奏法、歴史的な背景などを知れば、パイプオルガンがより身近になり、演奏を聴く楽しみがもっと広がるはず。今回は、神戸女学院のオルガニストであり、神戸女学院めぐみ会の音楽教室講師も務める片桐聖子先生に、パイプオルガンについて詳しく教えていただきます。

PROFILE

片桐 聖子さん

神戸女学院大学音楽学部オルガン専攻卒業、同大学音楽専攻科修了。在学中にハンナ・ギューリック・スエヒロ記念賞受賞。井上圭子氏に師事。ザ・シンフォニーホールをはじめとする各地ホールでのコンサートのほか、大阪フィルハーモニー交響楽団、日本センチュリー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、大阪交響楽団、ニュージーランド交響楽団、アジア・ユース・オーケストラ、パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団、聖フロリアン少年合唱団などと共演。NHK の音楽番組にて平井堅氏と共演したほか、民放の音楽番組でもオルガンの紹介や演奏で出演。現在、神戸女学院オルガニスト。日本キリスト教団仁川教会および神戸教会オルガニスト。神戸女学院めぐみ会音楽教室講師。一般社団法人日本オルガニスト協会会員。

意外と知らない? パイプオルガンの歴史や音が鳴る仕組み

パイプオルガンと聞いてまず思い浮かべるのは教会。そもそも、なぜ教会にはパイプオルガンがあるのでしょうか。そんな素朴な疑問を投げかけると、片桐先生はオルガンの歴史から説明してくれました。

「オルガンは紀元前3世紀にエジプトのアレクサンドリアで発明され、9世紀から10世紀頃にキリスト教会に導入されました。でも当時は、オルガンで音楽を奏でていたわけではなくて、聖歌を歌うための音楽教育に使われていたようです。13世紀から15世紀頃に音楽として奏でられるようになり、1517年のルターの宗教改革の頃にはコラールと呼ばれるルター派教会の讃美歌が生まれて、皆さんがイメージするような教会音楽の形になっていきました」

なるほど、初めから教会にオルガンがあったわけではなく、徐々に結びついていったんですね。これも初歩的な疑問なのですが、同じ鍵盤楽器であるピアノとはどう違うのでしょうか。

「ピアノとオルガンは、音が鳴るメカニズムが全く違います。ピアノは弦をハンマーで叩いて音を出すので、仕組みとしては打楽器になります。ちなみに、同じ鍵盤楽器であるチェンバロは、弦をはじいて音を出すので弦楽器の仲間です。オルガンには弦はなくて、一本一本のパイプが笛になっています。だから仕組みは管楽器と同じなんです」

オルガンが管楽器…? あまりピンとこなくて首を傾げていると、片桐先生がパイプを見せながら解説してくれました。

笛のようにパイプを吹いて音色を出し、構造を教えてくれた片桐先生

「パイプオルガンのパイプは、笛と同じ仕組みで音を鳴らしています。笛を口で吹く代わりに、『ふいご』という器具で風を起こし、鍵盤を押すことで開いた弁からその空気が出て、音が鳴る仕組みです。パイプオルガンになくてはならないのは、『パイプ・ふいご・鍵盤』。この3つが揃って初めてパイプオルガンと呼べます。だから、小学校の音楽室によくある足踏みオルガンにはパイプがないので、パイプオルガンとカテゴリーが異なるんです」

オルガニストは何役もこなす「一人オーケストラ」

パイプオルガンの音が鳴るメカニズムが少しずつわかってきましたが、なぜあれほどたくさんのパイプが必要なのでしょうか?

「パイプオルガンは、リコーダーのように指で穴を押さえて笛の長さを変えて音を調整するのではなく、パイプ一本につき一つの音色しか鳴らせません。だから、たくさんの音色を鳴らすにはたくさんのパイプが必要になります。神戸女学院の講堂のオルガンは2536本、ソールチャペルのオルガンは775本のパイプで構成されています」

神戸女学院 講堂のパイプオルガンは阪神淡路大震災で被災し、2536本のパイプをはじめとする内部がすべて入れ替えられました

2536本! あまりの数に驚きますが、日本国内には7000本以上のパイプを持つオルガンや、海外には3万本を超えるものもあるのだとか。鍵盤の数よりもパイプの数のほうがはるかに多いということは、一つの鍵盤を押して異なるパイプが鳴ることもあるのでしょうか。

「そうなんです。同じ鍵盤でも、まったく違う音色を奏でることができます。というのも、パイプオルガンには『ストップ』という音色を切り替える装置があるからです。ストップにはそれぞれ名前が付いていて、フルート、オーボエ、ファゴット、トランペットなど管楽器を模したものもあれば、ヴィオラなど弦楽器の音色を模したものもあります」

オルガニストはストップを操作しながら一人で何役もこなし、いくつもの楽器の音を奏でているんですね。まるで一人オーケストラですね!

「けっこう忙しいんですよ(笑)。例えば女学院の講堂のオルガンは、鍵盤が手元に3段と足元に1段、ストップが35個あります。曲の途中でストップを操作することもあるので、忙しいし頭も使いますね」

ちなみに、神戸女学院には7台のパイプオルガンがあり、講堂やソールチャペルをはじめほとんどがドイツ製だそうです。製造国によって違いがあるのか尋ねると、「ドイツ製のオルガンの音色は『すっきり、辛口』、フランス製は『甘い、まろやか、やわらか』と言われています」と片桐先生。なんだか日本酒やワインの話をしているようですね。なんとなく遠い存在だったパイプオルガンが、どんどん身近に感じられるようになってきました。

「パイプオルガンは、一台一台が場所や用途に合わせて作られたオーダーメイド品なので、一つとして同じものはありません。オルガニストは、他の楽器演奏者のように自分の楽器を持ち歩けないですが、いろんなオルガンと出会うたびに友達が増えていくような感覚があります。女学院の講堂のオルガンは、学生の頃から30年以上一緒にいるので、苦楽を共にした相棒のような存在。試験で緊張して震えている私とか、いろんな私を知ってくれているので、愛着があるしやっぱり特別です」

メンタルの強さも必要? オルガニストの知られざる一面

神戸女学院や近隣教会のオルガニスト、神戸女学院めぐみ会の音楽教室講師を務めるほか、国内外の多くのオーケストラとも共演するなど、多方面で活躍している片桐先生。どんなきっかけでオルガニストの道へと進むことになったのでしょうか。

3歳からピアノを習っていて、将来の進路を考えた時に『音楽をやりたい』と思ったんです。ピアノの先生に相談したところ、その先生は神戸女学院大学のオルガン専攻出身で、『オルガンをやってみたら』と勧められて。実は私の母が教会のオルガニストで、子守唄代わりに讃美歌を聴いて育ったので、もともとオルガンは身近な存在でした。それで、ちょっとやってみようかな、と始めたのが中学3年生の頃です」

その後、片桐先生は神戸女学院大学に入学し、オルガンを専攻。師事した先生がコンサートオルガニストとして活動している方だったことがきっかけで、自分の世界が広がっていったと言います。

「教会で弾くというイメージを持って入学したんですけれど、コンサートオルガニストとして華やかに活躍している先生に出会い、『こんな世界があるんだ』と知りました。初めは夢のまた夢みたいな憧れでしたが、在学中にオーケストラと演奏する機会に恵まれて、卒業後もオーケストラに参加する仕事をたくさん経験しました。自分にとって雲の上のような存在だった指揮者やオーケストラの方々と一緒に演奏できるのは、すごく勉強になるし楽しいですね」

オーケストラと共演する時に、大変さや難しさを感じることもあるのでしょうか。

「演奏台で弾いている時に自分に聴こえている音と、客席で聴こえている音とはバランスが違うので、調整するのが大変ですね。あと、残響で時差が生じるので、自分ではぴったりのつもりなのに『オルガン遅れてるよ』と指揮者からダメ出しされることもあります(笑)」

そういえば、オルガンの演奏台は指揮者から遠く離れているし、オルガニストは指揮者に背を向けていますよね。どうやって指揮者を見ているのか不思議に思っていると、「演奏台に鏡があって、鏡越しに指揮者を見ています。最近はモニターが設置されているホールも多いです」と片桐先生。

「指揮者やオーケストラの人たちとの距離が遠いので、会話をするのも大変なんですよ。ちゃんと意思表示をしないといけないので、無茶ぶりされた時は『それはできないです!』とか、けっこう大きな声を出しています(笑)。でも、指揮者の方の意図を汲みとって、やりとりしながら音楽を作り上げていくのは楽しいです」

実はオルガニストにはメンタルの強さが必要かも……。思わずそうつぶやくと、「強くなりますよ」と片桐先生はにっこり笑います。

他にも、「実際に本番で使う楽器に触ることができるのは、直前のリハーサルなどの限られた機会しかない」といった、オルガニストならではのさまざまな苦労があるのだとか。優雅で華やかに見えるオルガニストの知らなかった一面を垣間見ることができました。

演奏者の個性が表れる! パイプオルガンの魅力

最後に、パイプオルガンの演奏を聴く際に、知っておくとより楽しめるポイントについて伺ってみました。

「もしオルガニストの動きをじっくり見たいなら、バルコニー席を選ぶと良いかもしれません。ホールにもよりますが、バルコニー席だとオルガニストの手元や足元、ストップの操作まで見えることが多いので、より楽しめると思いますよ」

さらに、聴く時のポイントについても、片桐先生はこんなふうに教えてくれました。

「同じ曲でも、どんな音色を選ぶかはオルガニストによって違います。例えばバッハの『トッカータとフーガ』のような有名な曲でもいろんな解釈があります。フランスの近代曲には音色の指示まで楽譜に書かれていることが多いですが、バッハの場合は楽譜に指示がないんですよ。だから、『この人はどんな音色を選んで弾くんだろう』と聴き比べてみるのも面白いと思います」

神戸女学院の4人のオルガニストも、同じ先生に師事して、同じオルガンを使って演奏しているのに、同じ讃美歌でもそれぞれ微妙に違っているそうです。音色の選び方や弾き方にキャラクターが表れるのは面白いですね。

今回、パイプオルガンにまつわるさまざまなお話を伺って、改めて演奏をじっくり聴いてみたくなりました。特に有名な曲を聴く時には、オルガニストの個性に注目して聴き分けてみたいと思います。

(ライター:藤原 朋)

もっと学びたいあなたへ

パイプオルガン入門
見て聴いて触って楽しむガイド

椎名雄一郎 著
春秋社 2015

著者は世界で100台以上のオルガンを弾いてきたオルガニスト。オルガンの歴史や名曲の数々、日本と世界の名オルガン、名演奏家たちの録音など、オルガンの魅力についてさまざまな切り口で愛情たっぷりに語った本です。「私も興味深く読みました。とてもわかりやすく書かれているので、オルガンのことをよく知らない方でも入門書として読みやすいと思います」と片桐先生。この本を読んでからパイプオルガンの演奏を聴けば、楽しみがさらに広がりそうです。

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