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Research

女性、男性、社会にも役立つように。月経ストレスとジェンダー研究

ここ数年、社会で取り上げられる機会が増え、理解が進みつつある女性の月経。ただ、月経は症状も悩みも一人ひとり異なるため、男性だけでなく、女性同士でもわかり合えないともいわれています。

そこで今回は、「健康」「ジェンダー」「情報科学」という視点から生命科学・医学研究を進める、人間科学部環境・バイオサイエンス学科教授、佐藤友亮先生の「健康科学研究室」を訪れ、佐藤先生と「月経のストレスとジェンダー」を研究する学生に話をうかがいました。彼女たちの取り組みや思いから、社会と私たちが月経にどう向き合えばいいのか、気づきと学びをもらいました。
※取材は感染対策に配慮して実施。撮影時のみマスクをはずしています

目に見えない月経のストレスの度合いを可視化

内科医でもある佐藤先生は、①免疫やがんに関する細胞生物学的な研究、②生命科学・医学についてジェンダーの視点からアプローチする研究、③情報科学を取り入れた生命科学・医学研究、④身体とコミュニケーションに関する研究と、ヒトの健康と身体という大きなテーマに対して、4つのアプローチから研究を行っています。

4年生のAさん、Dさん、Eさん、Rさんは佐藤先生のもと、Gender(ジェンダー)とHealth(ヘルス)の頭文字から名付けたGH班として、卒業研究で「月経のストレスとジェンダー」を追究しています。では、卒業研究のテーマに「月経」を選択した理由は何だったのでしょう。

「授業やメディアなどで取り上げられている情報から、月経が多くの女性のストレス要因や社会課題になっていることを学びました。私たちも、家族や友人なども、月経には何かしらの悩みがあります。そこで、少しでも貢献できることはないかと思い、月経を卒業研究のテーマに決めました」(Rさん)

研究では、月経周期においてストレスがどのように変動するのかを検証する必要がありました。ただ、月経の症状は人それぞれ。心身への負担も、感じ方も個人差があるストレスを推し量ることは難しく、4人はまず測定方法を模索しました。

「佐藤先生にアドバイスをいただきながら、私たちは、『唾液アミラーゼモニター』という方法を採用しました。ストレスというと精神的負担をイメージされると思いますが、身体にも負担がかかっています。唾液アミラーゼは炭水化物の消化酵素で、ストレスを感じたときに数値が上昇する特徴があります。そこで、唾液アミラーゼ値を測定することで、ストレスの状態を数値化することにしたのです」(Dさん)

測定に利用した「唾液アミラーゼモニター」

唾液でストレスの状態がわかるとは……! 測定方法も簡単で、専用のチップで唾液を採取し、唾液アミラーゼモニターの機器にセットするだけで、唾液アミラーゼ値が表示されます。たしかに、これなら感覚的で目に見えないストレスを捉えやすくなります。

GH班は被験者に1カ月間、昼食前と夕食前の1日2回、唾液アミラーゼの測定を依頼。数値のほか、体温と体調、ストレスを感じた出来事を記録してもらいました。すると、普段は高くても30IU/Lの唾液アミラーゼ値が、月経の1日〜3日前には50IU/Lを記録。「月経前にストレスが高まるという症状があり、数値として現れたといえるのではないか」と考察しました。

GH班が研究発表のために作成した「被験者Aのストレス変動のグラフ」

月経期間中に加え、月経前に感じる身体的・精神的負担をPMS(月経前症候群)ということをご存じの方も多いでしょう。PMSは月経前の310日前に生じる症状とされ、腹痛や腰痛、頭痛、身体のだるさ、眠気、乳房のハリ、イライラ、不安感など、女性によってさまざま。このPMSのうち、精神的症状がとくに重い状態をPMDD(月経前不快気分障害)といい、昨今はこのPMDDに悩む方が増加傾向にあるそうです。

「実験前、私たちは被験者のPMSPMDDについても想定し、月経前にはストレス値が高くなるだろうと仮説を立てていました。しかし、ここまでハッキリと現れるとは思いませんでした」(Aさん)

月経中も月経前も「痛みや不快感といったストレスはつきもの」とはいえ、この被験者の場合、月経周期より遠い日は、唾液アミラーゼ値が10klU/Lに満たないことがあったそう。月経前は、かなりのストレスがかかっていることがよくわかります。

この結果を受けて、GH班は月経のストレスの変動を調べるため、サプリメントを使ってストレス変動を測る検証を行いました。用いたのは、アミノ酸の一つであるオルニチン。被験者にオルニチンのサプリメントを摂取してもらい、唾液アミラーゼ値の測定を行ってもらいました。すると、月経前の唾液アミラーゼ値が1020IU/Lと、半分以下に低減したのです。

「今回は限られた被験者での検証だったので、どの女性にもこの結果が当てはまるわけではなく、また、唾液アミラーゼ値の上昇と下降がすべて月経によるものともいえません。ただ、サプリメントの摂取といった手軽な方法で、月経時のストレスを少しでも減らすことができるかもしれないと感じました」(Rさん)

「月経について学ぶことがあたりまえになれば」と話すAさんとRさん

女性はあきらめ傾向、男性は理解しているつもり?

「月経」というテーマに対して、4人にはもう一つ取り組んできたことがあります。それが、「月経の情報発信」です。彼女たちが卒業研究のプロジェクト名としてGH班(Gender and Health)と名付けたのは、健康とジェンダーという2方向からアプローチすることを決めていたため。「唾液アミラーゼ値の測定」がHealth(ヘルス)からのアプローチで、「月経の情報発信」がGender(ジェンダー)からのアプローチというわけです。

月経の情報発信では、デジタルネイティブのZ世代らしく、InstagramTwitterといったSNSをフル活用。「PMSって何?」「月経ストレスを和らげるストレッチ」といった知識や情報を、イラストを用いた親しみやすい表現で随時発信しています。

さらに4人はSNSを活用して、「月経の意識調査」も行いました。

調査では、女性140名、男性44名にアンケートを実施。4人の思い通り、多様で興味深い結果が得られたと言います。

「男性への『月経について理解していると思いますか』という問いに対して、『理解している』との回答が50%、『理解していない』との回答が50%と、ちょうど二分しました。また、月経の辛さを伝えてほしいという声もあれば、関心がないという声もあり、家族をはじめとする男性を取り巻く環境などによって、認識が変わってくるのかもしれません」(Eさん)

女性のアンケート結果にもさまざまな気づきがあったと4人は言います。

「女性からの回答では、『男性に月経を理解してほしい』が89.3%という結果に。ただ自由回答には、辛さを訴えても理解されると思わない、仕事や家事などを休める状況にないといった声が目立ちました。月経の症状によって女性同士でも意識に違いがあり、男性と同じく環境も影響しているのではと思いました」(Aさん)

正しい知識の共有が月経の理解につながる

月経の意識調査で検証した男女間、そして女性同士の意識の差をどう埋めていけばいいのか。4人は男女ともに月経の正しい知識を持つことが重要であると改めて実感したと言います。

「私たちもそうでしたが、中学校・高校の性教育は今も昔も男女別で受けることが主流です。月経については、妊娠・出産といった生命を育むために不可欠な女性の身体機能としては学びましたが、PMSなど月経に伴う症状について知る機会はなかったです」(Rさん)

そこで、4人は、中学生・高校生に向けて、男女が一緒に月経について学ぶことができる冊子『中高生に知ってもらいたい月経のこと あなたのカラダ、あのこのカラダちゃんと知ってる?』を制作することにしました。冊子には、学校の性教育で学習する内容に加え、PMSPMDD、避妊や不妊、無月経、ジェンダー問題など、かなり踏み込んだ内容も盛り込んだと言います。男女ともに、できるだけ早い段階で、月経をはじめとする身体について正しい知識を獲得することで、異性・同性を問わず相互理解につなげてほしい。それが、彼女たちの卒業研究の大きな目標であり、願いでもあることが、インタビューから伝わってきました。誰もが月経のことを知っていれば、今よりも女性は悩みを話しやすくなったり、男性は快く手助けができたりするのかもしれません。

「月経について学外の人にも伝えていきたい」とEさん、Dさん

最後に、佐藤先生にGH班の取り組みと、月経をはじめ、生命科学・医学とジェンダーについて、うかがいました。

「彼女たちの卒業研究について、私からは専門的なアドバイスのみで、すべて4人で挑戦し、検証・考察してきました。月経については、昨今の社会的関心の高まりによって、オープン化へのハードルが下がっている雰囲気も感じます。一方で、女性の社会進出をはじめ、ライフスタイル、ライフサイクルの変化に伴う出産回数の減少、初潮から閉経まで月経年数・年齢の延長によって、子宮内膜症や子宮筋腫をはじめとする月経困難症が増加、深刻化しています。こういった問題解決には、神戸女学院が取り組む『女性学』においてジェンダー平等の推進や社会環境の整備、そして私たちが取り組む女性の身体と健康の生命科学・医学研究をさらに発展させていくことが重要です」

ひと昔前の日本には、「月経は病気ではないので休息は不要」「男性はおろか、誰かに口外すべきではない」といった社会風潮もありました。月経やジェンダーに対して、社会の受け止め方が変わりつつありますが、それぞれが向き合い、理解しあうことが自分自身、そして周りの人の笑顔にもつながるのではないでしょうか。

(ライター:中野 祐子)

もっと学びたいあなたへ

PMSバイブル 月経前症候群のすべて

キャナル・ダルトン著 児玉憲典訳
学樹書院発行 2007

4人が研究や学習のために熟読した一冊。著者は、PMSの諸症状はすべて月経ホルモンの変動と、それが細胞に及ぼす影響という観点から「PMSを医学的対象として捉えるべき」と主張したPMS研究の第一人者。正しい知識、そして診断や治療について、広く理解してもらうことが狙いという著者の言葉通り、4人も大変参考になったそうです。PMSをはじめ月経のメカニズムを知りたい方、悩む方はぜひ手に取ってみてください。

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