「能楽の魅力を世の中に広めたい」。自分の「好き」を大切にする働き方・生き方とは?
ワークライフバランスの重要性が叫ばれて久しい昨今。ワークライフバランスに代わる新しい概念として、近年はワークライフマネジメント、ワークライフインテグレーションといった言葉も耳にするようになり、多くの人たちが自分らしい働き方や...
3月8日は国際女性デー。1904年、ニューヨークで婦人参政権を求めたデモが起源となり、「広く女性の社会参加を呼びかける記念日」として、1975年に国連によって制定されました。
今回は、国際女性デーにちなんで、神戸女学院大学女性学インスティチュートのディレクターを務める高岡素子先生と、女性学インスティチュートサポーター「ミルラ」のメンバーとして活動する学生の皆さんにお話を伺います。
そもそも女性学とは? 女性学インスティチュートではどんな活動をしているの? そんな疑問について答えていただきながら、ジェンダー平等や多様性について改めて考えました。
※取材は感染対策に配慮して実施。撮影時のみマスクをはずしています
神戸女学院大学女性学インスティチュートは、1985年の設立以来、40年近い歴史を持つ研究機関。2020年4月から当機関のディレクターを務める人間科学部教授の高岡素子先生は、女性学インスティチュートについて次のように説明します。
「教育・研究・活動を3本柱に、ジェンダー平等の実現や、女性がありのまま受け入れられる社会の構築をテーマに活動をしている組織です。女性にまつわるさまざまな問題についての講義を学生さんに対して提供しているほか、ジェンダーの研究を推進したり、市民への啓蒙活動を行ったりしています」
ジェンダー平等は女性としてもちろん気になるキーワードですが、「女性学」という学問となると少しハードルが高いかも……と感じていると、「女性学っていう看板ですけれど、女性のことだけを研究しているかというと、決してそうではないんですよ。多様性理解が大きなテーマですね」と笑顔で語る高岡先生。その一例として、毎年行われている女性学インスティチュート定例研究会について紹介してくれました。
「2022年度の定例研究会では、『ジェンダーを科学する』と題して人間科学部の教員3名が発表し、私は『月経前の不快な症状をアロマの香りで軽減できるか』をテーマに取り上げました。他にも、フェムテック(※)関係の発表や、魚類のオスとメスの振る舞いに関する発表など、内容は多岐にわたっていましたよ」
※フェムテック=Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をあわせた造語で、女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品・サービスのこと。
定例研究会のテーマから、女性学とひと言でいっても、かなり幅広い分野であることがよくわかります。
女性学インスティチュートサポーター「ミルラ」として活動する学生の皆さんも、女性学に興味を持った入口はさまざま。シラバス(授業計画)を見て、「女性学って何? こんな科目があるんだ」となんとなく気になって受講したのがきっかけだとNさんが振り返ると、Yさんも「私もシラバスを読んで、今まではずっと共学だったので、女子大ならではのことを学びたいと思って選びました」と話します。
一方、Iさんは「高校生の頃に文部科学省指定のSGH(スーパーグローバルハイスクール)の活動で移民学を学んでいて、日本で暮らす外国人女性への聞き取り調査を行っていました。将来も外国人女性をサポートする活動がしたいと考えて、女性学が学べる神戸女学院大学に進学しました」と、女性学が大学選びの決め手になったといいます。学生さんたちのきっかけも三者三様で、女性学の多様さが伝わってきます。
「ミルラ」のメンバーの皆さんは、女性学インスティチュートの活動としてさまざまな取り組みを行っています。2022年度の大学祭では、「ジェンダーについて知るきっかけづくりに」と、アロマを焚いた部屋にジェンダー関連の本を集めて展示。香りが心地よい空間には学生だけでなく、保護者や一般の方など幅広い年齢層の人たちが訪れ、男性もジェンダー本について気軽に質問してくれたそうです。
女性学インスティチュートの主催で2022年12月に開催された、芦屋市長・いとうまい氏と宝塚市長・山﨑晴恵氏を招いた対談講演会では、高岡先生がファシリテーターを務め、「ミルラ」メンバーのNさんが学生代表の一人として登壇。学生から両市長に、さまざまな質問を行いました。Nさんは、多様性や女性の社会進出といった女性学にまつわるテーマや、「男性が多い政治の世界になぜ飛び込もうと思ったのか」という素朴な疑問など、市長と直接やり取りすることができて、とても刺激的な時間だったと笑顔で振り返ります。
「女性の市長さんってどんな方なのかなと、最初はドキドキしていたんですけれど、お二人ともとても多面的で柔軟な考え方をされる方でした。市民を巻き込んでみんなで一緒にやっていこうという意識を持っておられるのが印象的でしたね」(Nさん)
こういった学内イベントの開催だけでなく、「ミルラ」は大学への働きかけも行っています。2022年12月には、生理用ナプキンを無料で提供するサービスの設置について、大学に嘆願書を提出しました。
「“生理の貧困”という言葉が最近よく取り上げられていますが、特に男性の教職員は『本学には困っている学生はいないだろう』と考えている人が多かったと思うんですよね。でも、ミルラのメンバーの4年生が中心になって学内でアンケートを取ってみると、実際にナプキンがないことで困っている学生さんもいたんです。ミルラのメンバーが学生にアンケートを実施してエビデンスを出して、学長室に提出したのです」(高岡先生)
「アンケートでは、約90%の学生がナプキン設置に賛成という回答でした。設置場所や方法についても多くの意見が集まったので、これは動かないといけないなと思いました」(Nさん)
現在は、費用面や運用面など詳細を詰めている状況で、まだ実現には至っていないそうですが、学生発信でこういった動きが生まれたこと自体が、とても意義がある事例だと感じます。
女性学インスティチュートでは、一般向けのセミナーやイベントも行っています。2022年11月には、映画『トークバック 沈黙を破る女たち』の上映会と坂上香監督を招いたトークイベントを開催。2023年2月には、坂上監督の最新作『プリズン・サークル』の上映会を行いました。運営スタッフとして参加したミルラの皆さんは、これらのイベントを通してどんなことを感じたのでしょうか。
「トークバックはアメリカの女性受刑者、プリズン・サークルは日本の男性受刑者を取材したドキュメンタリー映画です。日本の女性の問題だけではなく他の国の事例も取り入れながら、一般の方にもより広く知っていただく機会になったのではないかと思います。質疑応答の時間には、参加者の皆さんがご自身の経験やそれぞれのご専門の立場から語ってくださったので、幅広い視点が得られてとても勉強になりました」(Iさん、下の写真左)
「上映後のディスカッションがすごく活発で、学びごたえがありましたね。トークバックの後にプリズン・サークルを観たので、アメリカと比較して『日本はまだそこなんだ』と後れを感じてしまう部分もありましたが、2本の映画を通して、より学びを深めることができたと思います」(Yさん、同右)
『プリズン・サークル』は、受刑者同士の「対話」をベースに更生を促すプログラムを、日本で唯一導入している刑務所が舞台となっています。上映後のディスカッションでも、「対話」の大切さや、ありのままの自分が受け入れられる場の大切さが語られていました。高岡先生は、ミルラの活動の意義も「対話」にあると話します。
「一人で考えるよりも仲間と対話をしたほうが、自分の頭が整理できるし、視野も広がる。そういうサークル活動のような場を作りたいと思ったのが、ミルラの一つの狙いなんです。例えば月経の話題でも、なかなか友達同士で話さないじゃないですか。でも、生理用ナプキンの嘆願書を作った時には、みんなで気軽に話ができたんです。他ではあまり話さないことでも、“ここなら話していいんだ”という場を作れたら幸いだなと思っています」(高岡先生)
Iさんは、女性学の授業やミルラの活動で、対話できる場があることの大切さを実感しているといいます。
「ディスカッションをする場でも、少人数ということもあり言いたいことを伝えられているように思います。ありのままの自分を受け入れてもらえる場に身を置く大切さを感じています」(Iさん)
女性学を通して、ミルラの皆さんはどんな学びや気づきを得ているのでしょうか。
「私は、当たり前という概念をいったん全部外すことの大切さを学びました。色ひとつとっても『女の子は赤で、男の子は青』とか、知らない間に刷り込まれていることってたくさんあると思うんですけど、それを全部外してしまえば新しい世界が待っているし、例えばLGBTQの方たちのお話も自然に受け入れられるようになったんです。当たり前という概念を外すことは、私にとってすごく新鮮で楽しい経験でした」(Yさん)
「私も、当たり前を疑ってみることは、世の中を変えるのに一番必要な力だなと感じています。そこから『私が社会を変えよう』という力が芽生えることもあるし、自分自身の弱さや課題に気づけることもあると思いますね。女性学の正解は一つじゃなくて、一人ひとりが自分の女性学を作っていくものかもしれません」(Nさん)
「これが当たり前」というステレオタイプから解き放ってくれたり、「自分も頑張ろう」と思えるように背中を押してくれたり。女性学は多くの気づきやエンパワーメントを与えてくれる存在なのでしょう。
就職活動中のYさんが、「女性管理職の割合が少ないなら、自分が管理職になろうと思って、それを自分の軸にして就活をしています」といきいきと語る姿を見て、頼もしく感じるとともに、多様性について若い世代に託してしまわずに、自分事として考えてみよう、と背筋が伸びる思いがしました。
(ライター:藤原 朋)
文/キャリル・ハート 絵/アリー・パイ 訳/冨永愛
早川書房発行 2020
女の子が夢を叶えるのを応援する絵本。女の子たちが、科学者や警察官、消防士、土木作業者といったさまざまな職業に就く姿が描かれています。翻訳を手がけたのは、モデルの冨永愛さん。「女の子にやさしく語りかけるような翻訳が印象的。絵もかわいいです」とYさんが勧めてくれました。子どもへのプレゼントにはもちろん、女性学やジェンダー平等について考えるきっかけとして、大人にもおすすめの一冊です。
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