多数の演奏家たちをまとめあげる!オーケストラの指揮者に学ぶチームマネジメント
時には100名を超えるプロの演奏家たちを束ねるオーケストラの指揮者。彼らはどうやって組織をまとめあげ、人々に感動を与える音楽を生み出しているのでしょうか。 オーケストラをビジネスの場面に置き換えると、オーケストラは企業、楽...
日本全国に数々の西洋建築を残したアメリカ出身の建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。数年前に改修を終えた大阪の大丸心斎橋店本館、東京の山の上ホテルは、代表的な作品としてご存じの方も多いのではないでしょうか。
ヴォーリズは学校建築も多く手掛けています。その一つが、神戸女学院岡田山キャンパス。妻・一柳満喜子の母校ということもあり、特別な思いを込めて設計に取り組んだと伝えられています。
ヴォーリズが設計した建物のうち現存する12棟が、2014年に国の重要文化財に指定されました。これを機に、学生が建物の特徴や見どころを説明する「学生ツアー・マイスター」がスタートしました。
今回は、ツアー・マイスターとして活躍する2名の学生に、岡田山キャンパスを案内していただきます。このキャンパスで日々学んでいる学生ならではの視点で、ヴォーリズ建築の魅力をたっぷり教えてもらいましょう。
瓦葺きの美しい正門をくぐり、ゆるやかな坂道を上って岡田山キャンパスの構内へ。
街の喧騒を忘れるような落ち着いた空気に包まれ、こんなキャンパスで毎日過ごせたら・・・と思わず憧れてしまいます。
お話を伺うのは、人間科学部環境・バイオサイエンス学科4年生のIさんと、文学部総合文化学科3年生のMさん。2人とも1年次からツアー・マイスターとして活動しています。
ツアー・マイスターとして活動するには、講座を受講して認定を受けることが必要。学生たちは大学の歴史やヴォーリズとの関わり、校舎の特徴などを全6回の講座で学びます。2017年度からは自校教育のプロジェクト科目の一つとして、単位認定もされています。講座を終えたら、胸にツアー・マイスターの認定バッジを付けて、いよいよガイドとしてデビューします。
早速、岡田山キャンパスを2人に案内してもらうことに。
まず初めに訪れたのは、中庭を挟んで向き合うようにして建つ文学館と理学館。文学館には文学部、理学館には人間科学部の学生たちが学ぶ教室が並んでいます。
ヴォーリズ建築の特徴の一つは、実用的な設計。学生たちが使いやすいように、どんな工夫がされているのでしょうか。
「たとえば階段の段差が低く作られているので、1日に何度も上り下りしても疲れにくいんです。各教室のドアノブも、当時の女子学生の身長に合わせて低めに取り付けられています」(Mさん)
「廊下の床は、足音が響かないようにラバータイルが敷かれています。壁と床の間が丸くなっているのは、埃がたまりにくく掃除もしやすいための工夫です」(Iさん)
ぱっと見ただけでは気付けない、きめ細やかな工夫がたくさん!解説を聞いて初めて気付くことばかりです。
ところで今、私たちがいるのは文学館、理学館どちらでしょうか…?雰囲気が似ているので中にいるとわからなくて…。
「中庭を囲む建物はすべて渡り廊下で繋がっているので、雨の日でも傘をささずに校舎を移動できるんです。迷路みたいですよね(笑)。でも、文学館と理学館は建物内の壁の色を含めデザインが違うので、初めて来た人でも自分がどこにいるかすぐにわかるんです。新入生の時にこのことに気付いて、ヴォーリズさんの優しさを感じました」(Iさん)
なるほど!壁の色にまで思いやりが隠れているんですね。デザインから設計者の考えを想像する…まるで謎解きのようです。
「ヴォーリズは、設計の意図についてあまり明言していないんです。だから、実際に毎日使いながら、ここはこういう意図で工夫したのかも?と色々想像できるのが楽しい。想像の幅を持たせてくれているところが、ヴォーリズ建築の魅力だと思います」(Mさん)
続いて、入学式や卒業式といった式典が行われるエミリー・ホワイト・スミス記念講堂へ。
舞台が額縁のように区切られたプロセニアム・アーチが印象的な、重厚感のある空間です。
「講堂内がゆるやかな坂道になっているのは、元からの地形を生かしたものです。ちなみに正門から入った1番手前にある音楽館も、背後の斜面が自然の防音壁になるように、元の地形をうまく利用して作られています」(Iさん)
元からある地形を生かして活用するのも、ヴォーリズ建築の特徴の一つだそうです。
さらに、講堂から中廊下でつながる礼拝堂(ソール・チャペル)へ。
「キャンパス内でも特別な場所だと思っています。西側の窓に黄色いアンバーガラスが使われていて、ここから差し込む光でチャペルが黄金色に包まれるんです。西日が差す夕方の時間帯が特にきれいです。このガラスは特殊なもので、今はもう作れないそうです」(Mさん)
「正面にあるステンドグラスは、ヴォーリズさんが自らデザインしたものです。7本のろうそくは、聖書に登場する7つの教会の象徴だと言われています」(Iさん)
チャペル内はとても静かで、外の世界とは切り離されたような厳かな空気を感じます。空き時間にここで読書をする人もいると聞いて、日常的に利用できる学生たちが羨ましくなりました。
最後に訪れたのは、図書館。館内の閲覧室は、Iさんがキャンパスで1番好きな場所だそうです。
「自習する時によく利用しています。机や椅子、電気スタンドは、キャンパスが岡田山に移転した90年近く前からあるもので、今でも実際に使えるんです。歴史を感じながら日々学べることがとてもうれしいです」(Iさん)
「天井を見上げると、元気が出て明るい気分になります。バルコニーに出ると、中庭や噴水、重要文化財の建物を一望できるところもお気に入り。四季折々の景色が眺められます」(Iさん)
バルコニーからは、中庭を中心に4棟の建物が配されているのがわかります。この4棟が、心(講堂・チャペル)、知(図書館)、文学、理学のバランスが取れたリベラルアーツ教育の精神を表しているそうです。
ツアー・マイスターの活動を通して、「母校愛が強くなりました」と笑う2人。このキャンパスで実際に日々学んでいる2人のお話から、岡田山キャンパスの特別な魅力をより生き生きと感じることができました。
「歴史あるキャンパスで学べることは、入学を決めた理由の一つでした。これから4年間を過ごす校舎の歴史や特徴を、ツアー・マイスターとしてしっかり学んで、学生生活をより充実させたいと思いました」(Iさん)
「オープンキャンパスで初めて大学を訪れた時、キャンパスを案内してくれた先輩の一人がツアー・マイスターの方だったことをきっかけに、この制度を知りました。入学後に掲示板で募集を見つけ、これだ!と」(Mさん)
普段は、どんなふうに来場者を案内しているのでしょうか。
「メイン1人とサブ2人でチームを組んで、お客さまを案内します。講座で配布されたマニュアルがあるのですが、先輩から教わったことや自分が普段の生活で気付いたことなど、どんどんマニュアルに書き込んで自分なりにアレンジしています。自作の台本を作っている人もいますね」(Iさん)
「建築に関心がある人にはより詳しく説明したり、写真を撮りたい人にはおすすめの撮影スポットをお伝えしたり。お客さまの興味に合わせて案内するように心掛けています」(Mさん)
来場者は年齢層も様々で、全国各地から訪れるのだとか。建築関係者のほか、卒業生やその家族など神戸女学院にゆかりのある人も多いと言います。
「卒業生の方が、当時の大学生活について教えてくださることも。学内のチャペルで結婚式を挙げたというお話も伺いました。学生時代はこんなにじっくり建物を見ることがなかったけど、改めて見るとこんなに素晴らしいキャンパスだったんだ、という感想をいただいた時はとてもうれしかったです」(Iさん)
訪れる人たちとの出会いを大切にしながら、ツアー・マイスター自身も楽しんで活動していることが、2人の笑顔から伝わってきます。
一般見学会は、2020年度は新型コロナウイルス感染症による影響で開催されませんでしたが、いずれまた再開予定とのこと。学生目線でヴォーリズ建築を体感できる貴重な機会に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
(ライター:藤原 朋)
玉岡かおる 著
新潮社発行 2014・版元品切れ、文庫版刊行中
ヴォーリズと神戸女学院についてもっと知りたくなったら、この本がおすすめ。神戸女学院大学文学部出身の作家・玉岡かおるさんによる長編小説です。物語の主人公は、神戸女学院で音楽を学び、のちにヴォーリズの妻となる一柳満喜子。上巻では運命に翻弄されながらも自らの人生を切り開いていく満喜子の姿が、下巻では満喜子とヴォーリズの愛に満ちた生涯が描かれています。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんが、教員生活を過ごした神戸女学院のヴォーリズ建築について語る下巻の解説も必見です。
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